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辻堂ゆめさんが中学時代に“ひとめぼれ”したYUI 彼女の変化をずっと追いかけた青春

 映画の主人公である少女と、それを演じる役者と、彼女が作って奏でる曲と、飾り気のない歌詞と、透明感のある歌声。

 そのすべてに、同時に“ひとめぼれ”する体験をした。中学2年生の終わり頃、映画「タイヨウのうた」を見たときのことである。

 紫外線に当たると皮膚が火傷したようになる病気・色素性乾皮症(XP)を患う少女・雨音薫を演じたのが、この作品で女優デビューを果たしたYUIだった。当時の実年齢も、映画の中での設定上も19歳。夜な夜な外に出ては公園でアコースティックギターを弾き語りするという役で、作中で披露する主題歌も挿入歌もすべてYUIが作詞・作曲を担当。どこまでが雨音薫というキャラクターで、どこからが本物のYUIなのかも分からないまま、気がつくと虜になっていた。

 「どこからが本物のYUIなのか」。おそらくYUI自身も、それを模索していたのだろうと思う。映画公開から半年後にリリースされた7thシングル「Rolling star」は、「タイヨウのうた」のしっとりとして儚いイメージを吹き飛ばすような、アップテンポな曲だった。

 「もう我慢ばっかしてらんないよ/言いたいことは言わなくちゃ」。冒頭の歌詞はおそらく、彼女の本音だったのではないか。私は雨音薫じゃない。映画のイメージに引きずられるのはもう嫌だ。ありのままの私を見て。

 そんな彼女の素直でまっすぐな歌詞に、また胸を貫かれた。エレキギターを弾くYUIも、もちろんカッコよかった。だから反省し、心に決めた。映画の主題歌だった「Good-bye days」はもちろん大好きだけれど、それはそれ、これはこれ。今後は、YUIの“今の心の叫び”が詰まった新曲を楽しみにしよう。ずっとずっと、彼女の変化を追いかけていこう。

 この時点で、すでに大ファンになっていたのだと思う。学校までの徒歩25分の道のりは、常にiPodをポケットに入れて、行きも帰りもYUIの曲だけをシャッフルで聞いた。顔も声も綺麗なYUIには絶対になれないけれど、せめて少しでも近づきたくて、7000円のアコースティックギターと1万円のエレキギターをセールで手に入れた。YUIのギター弾き語り楽譜を買ってきて、でも素人がいきなり弾くには難しくて、当時は今ほど主流でなかったYouTubeで解説動画を見ながら、一生懸命コードの練習をした。なんとか形になってきた曲を完成させようと夜中まで必死に練習していたら、部屋にやってきた父に「何時だと思ってるんだ!」と怒られたこともあった。全部含めて、私の青春だった。

 2012年、YUIは紅白歌合戦に初出場した。そしてソロ名義での活動を休止した。別れの間際に彼女がテレビで歌った「Good-bye days」が今でも忘れられない。当時私は大学2年生。私の青春はYUIとともに始まり、YUIとともに終わりを告げた。

 そして2014年、私は『このミステリーがすごい!』大賞で優秀賞を受賞し、翌年に『いなくなった私へ』で小説家デビューした。国民的シンガーソングライターの女性が事件に巻き込まれる話で、作中での年齢は20歳、彼女が携える楽器はもちろん、アコースティックギター。誰がモデルかという明言は避けるが、一つ言えることがある。YUIがいなければ、私はたぶん、小説家になることはなかったのだ。