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島田ゆかさんの絵本「ぶーちゃんとおにいちゃん」 ケンカもするけれど、大好き!

文:石井広子、写真:本人撮影、かくたみほ(MOE2014年4月号、 2017年11月号掲載)

きらいだけど、いないと寂しい

――犬のぶーちゃんは、おにいちゃんが大好き。遊ぶときも食べるときも何もかもおにいちゃんの真似っこをしたがりますが、おにいちゃんはそんなぶーちゃんをうっとうしく感じていて――。島田ゆかさんの絵本『ぶーちゃんとおにいちゃん』(白泉社)では、兄弟がいる人なら思わず共感してしまう、ほほえましいエピソードが繰り広げられていく。2004年に発行した本作は37刷りを重ね、子どもから大人まで幅広い世代の心をつかんでいる。

 私には兄が一人いて、おそらく、子どものころの兄との記憶、経験がぶーちゃんとおにいちゃんの物語の発想に影響していると思います。でも、この絵本のようなほのぼのとした兄妹ではありませんでした。すごく仲が悪く、けんかばかりで最後は泣かされて終わる感じで。嫌がられたり、おもちゃを取られたり、食べ物が不公平だったり、そういう思い出って、いつまでも忘れないものですね(笑)。

 もし、ぶーちゃんみたいに、おもちゃを貸してくれない兄の耳をガブって噛んだ日には、その何倍にもなって返ってきたと思いますが、それに比べると、絵本ではだいぶソフトに描いています。ぶーちゃんはおにいちゃんにどんなに嫌がられても諦めない。おにいちゃんは、ときには見放すことがあっても、また仲良く一緒に遊んであげる。ぶーちゃんはそれがうれしくて、おにいちゃんをもっと好きになっていく。そんな兄弟愛を描いています。私も当時は兄のことを嫌いだと思っていたけれど、もしいなかったらやはり寂しかったんだろうなと思います。

「ぶーちゃんとおにいちゃん」(白泉社)より

 おもちゃの取り合いの場面とか、兄弟姉妹がいる人は自分のことと重ね合わせて読んでくださってるのかなと思いますね。下の子の出産を控えるお母さんは、これからこうなるのかなと想像しながら見てくださっていたり、なかなか仲良くなれない兄弟の場合は、けんかはするけど本当は自分のこと好きなのかなと、納得する子もいたりするようです。反抗期真っ盛りなのに絵本を読み返したら子どもたちが童心にかえり、親子で一緒に楽しんだという話を聞くと、うれしくなります。

――ぶーちゃんがお子様ランチのオムライスを食べるシーンは、特に思い入れがある。華奢な島田さんからは想像できないが、幼少時代、実は食いしん坊だったという。

 体の小さなぶーちゃんも、おにいちゃんを真似して大盛り! こんなに食べたら、お腹いっぱいになっちゃいますよね。私は子どものころ、ファミリーレストランに行くと、すごく興奮して、少食のくせに欲張っていろいろ注文しては食べ過ぎて動けなくなってしまうということがよくありました (笑)。このページは、当時の自分を思い出します。

「ぶーちゃんとおにいちゃん」(白泉社)より

「バムとケロ」のケロも登場!?

――物語の舞台となる部屋の造り、家具や雑貨、背景が事細かに描写されている。それらを探すのも、この絵本の楽しみ方の一つだ。

 最初に描き始めたときは、簡単な間取り図も考えていました。2段ベッドがある子供部屋があって、小さな庭があって……。ただ、絵本を描き進めていくうちに部屋と部屋のつながりや外観などの関係で、考えていたより大きな家になってしまいました。わが家はアパートなので無いのですが、カナダの一軒家には地下室があることが多いので、ぶーちゃんたちの家にも地下室がある設定にしました。残念ながら絵本には地下室に続く階段の柵しか描けなかったのですが。

 私の本の中には、至る所に細かいものが色々描かれていて間違い探しのように楽しめると思います。同じような場面が何度も続くときには、そういう細かいものをほんの少し変化させています。たとえば、ぶーちゃんのお絵描き帳。表紙のうさぎの絵はページごとに少しずつ変わっています。ソファにちょこんと腰かけた茶色いウサギは、常にぶーちゃんたちの真似をして、絵を描いたり、本を読んだり、居眠りをしたり……。

カナダ・トロントにある自宅のアトリエ。愛用の画材が並ぶ

 あと、絵のどこかにぶーちゃんのおにいちゃんの名前が出てきています。よく探さないとわからないかもしれません。子どものころ、本筋とは関係ないものを探させるような仕掛けのある漫画に夢中でした。ページの端に「二宮金次郎の絵がどこかに潜んでいる」というヒントがあって、それを探し出せたときは何ともいえない達成感がありました。そんな小さな仕掛けが昔から好きなんです。

――島田さんの代表作で、初めて出版した絵本「バムとケロ」シリーズ(文溪堂)に登場するカエルのケロやヘビのぬいぐるみのしましまも、本作のところどころに現れる。タイトルを超えて登場する脇役のキャラクターも、島田さんファンにはたまらない要素だ。

 私にとっては、最初に描き始めたのがカエルのキャラクターだったので、ケロは私の絵本の基本なのかもしれません。本作では、「バムとケロ」のケロとは違う、ただのぬいぐるみということで登場しています。書店員として働いていたころ、お店に来ていた女の子がカエルのぬいぐるみを足の方を上にして抱っこしていたのが印象的で、そこからカエルの絵を描き始めたのです。それが絵本を描くきっかけになりました。

動物たちの日常を描きたい

――「MOE絵本屋さん大賞」(白泉社)のキャラクターとしても登場するぶーちゃんとおにいちゃん。こうした動物をモチーフに主に描いてきた島田さんは、海外の数々の作家から大きく影響を受けてきたという。

 とても細かい絵を描くアメリカの児童文学作家、リチャード・スキャリーは、動物を主題とすることが多く、脇役もしっかりと描いています。1920年代のイギリスの漫画家、ジョージ・スタディも好きですね。「ボンゾ」という犬のキャラクターで知られています。まぶたがぷくっとしていて、体にしわが寄っている。不気味なのに愛嬌のあるボンゾに強く引かれました。ぶーちゃんは、その影響を大きく受けていますね。ぶーちゃんも最初は不気味だとか可愛くないとかよく言われましたが、今では可愛いと言ってくれる人が多くなりました。不思議です。

「ぶーちゃんとおにいちゃん」のモデルとなったイギリスの「ボンゾ」の人形

 親交のあるフィンランドの絵本作家、ユリア・ヴォリさんの絵本は、背景に描かれているものの中にたくさんの情報と発見があります。そして彼女の描くものは、ある意味、真剣にばかばかしくて。わざと笑わせようとしているユーモアではなくて、さりげなくおかしいみたいな。私も、動物たちのたわいない日常生活を描いているだけなのに思わず笑ってしまう、そんな真剣でばかばかしい絵本を作り続けていきたいです。

 カナダに住んでもうすぐ20年。日本での生活が忙しかったので、より良い作品作りのためにも環境を変えようと移住を決めました。ここでは、リスやアライグマ、シカなどの野生動物もしばしば見かけます。そういった身近な動物とともに、あまり知られていない動物や絶滅危惧種の動物なども絵本に登場させたいと思っています。