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小西英子さんの絵本「サンドイッチ サンドイッチ」 食べ物のエネルギッシュさに負けない絵を

文:加治佐志津、写真:本人提供

材料を吟味して、最高に贅沢に

―― ふわふわの食パンにバターをたっぷり塗ったら、しゃきしゃきレタスに真っ赤なトマト、チーズやハムものせて……さあ、次は何をのせようか。『サンドイッチ サンドイッチ』(福音館書店)は、サンドイッチ作りの工程を鮮やかな色彩とリアルなタッチで描いた食べ物絵本。通常版の4倍ほどのサイズの大型絵本や、ロバート・キャンベルさんの訳による英語版『Sandwich! Sandwich!』も出版されている。幼稚園、保育園や図書館での読み聞かせでも人気の一冊だ。

 サンドイッチを題材にするというのは、じつは私のアイデアではなくて、編集者さんからの提案でした。『まるくて おいしいよ』で、ケーキやのりまき、スイカといった丸い食べ物を描いたのですが、それをご覧になった編集者さんから「次はぜひサンドイッチの絵本で」とリクエストをいただいたんです。丸い食べ物の次は、三角のサンドイッチで、というイメージが頭の中にあったのかもしれません。

 サンドイッチと聞いて私が真っ先に思い出したのが、「グルメ」というサンドイッチ専門店。1970年の大阪万博の頃にオープンしたチェーン店で、小学6年生のとき、親が連れて行ってくれたんです。分厚くて、海老フライが挟まった豪華なサンドイッチを見て、こんな贅沢なサンドイッチがあるのかとカルチャーショックを受けました。だからサンドイッチの絵本を作るなら、あのとき食べたもの以上の最高に贅沢なサンドイッチにしようと、最初から心に決めていました。

表紙の鮮やかな緑色が印象的な絵本だが、表紙のカラーに紆余曲折があった。制作当初の第一候補は黒、他にベージュや赤、黄色も検討したという

―― サンドイッチの絵本を作るにあたって、最初にしたのは材料選び。実際に材料を揃えて、実物を見ながら描くのが小西さん流だ。理想的な材料を求め、あちこちに出向いて買い物をしたという。

 まずパンは、コンビニや近所のパン屋さん、芦屋や大阪の高級パン店などでひと通り買って、色味やきめの違いを見比べました。最終的には「ビゴの店」の食パンを使うことにしたんですが、扉のページにはいろいろなお店の食パンを描いています。ふんわりとした質感や、トーストした食パンのサクッとした感じなど、噛んだときの食感が伝わるように意識して描いていきましたね。

 チーズは、梅田のデパ地下で見つけたフランス産のチーズにしました。小さい頃に読んだイソップの『町のネズミと田舎のネズミ』に、穴の開いた黄色いチーズの挿絵があって、すごく印象に残っていたんです。それで、なるべくそれに近いチーズを探して選びました。

厳選した材料を揃えて、サンドイッチ作りがスタート。 『サンドイッチ サンドイッチ』(福音館書店)より

 ハムも、普通のピンクのハムではなくて、具材の入ったカラフルなハムにしました。正確に言うとこれはソーセージなんですけどね。ヨーロッパでハムの専門店に行くと、いろんな種類のハムがたくさん並んでいて、グラム売りしているんです。その贅沢な雰囲気をぜひ取り入れたいなと。それで、またデパ地下を何軒もまわって、ドイツ製やイタリア製、フランス製のハムのスライスパックをいくつか買ってきて、家でじっくり吟味しました。

レタスを描いてヘトヘトに

―― さまざまな具材を描いたが、最も苦労したのがレタスだ。他の具材よりも鮮度が落ちるのが早く、時間との闘いを強いられた。なかなか納得のいく絵が描けず、精神的にも追いつめられたという。

 ゆるく波打った葉先を丁寧に描いているうちに、瑞々しさがどんどん失われていってしまうんですよ。やっと描き上がっても鮮度が悪そうに見えたり、レタスならではの軽さが感じられなかったりで、ボツにしたりして。3、4時間、とにかく集中して描き上げて、へとへとになって、でも翌日見たら「これはあかんな」って思ったり……そんなこんなで、納得のいくレタスが描けるまで7枚も描き直しました。

 レタスは包みを開けるまで形がわからないので、何玉か買ってきて、一番形のいいものを選んで描いたんですね。おかげで我が家の冷蔵庫はレタスだらけ! スープにしたり炒飯に入れたり、シーザーサラダにしたりして消費しましたが、もう当分レタスはいいわって感じでした(笑)。

―― パンを切る場面も、構図を変えて何度も描き直した。上から見るか、横から見るか、耳は切り落とすか、そのままにするか。大切にしたのは、子どもの視点と絵本に流れるリズムだ。

 そのページまではずっと俯瞰の視点で描いていたので、最初はパンを切る場面もそのまま上から見た感じで描きました。でも描いてみてから、これではせっかくのきれいな断面が見えないじゃないか、と気づいたんです。それに、四角いパンを四角く切ってしまっていたのも面白みに欠けていました。

サンドイッチを切る場面でボツにした2パターン

 そこで次に描いたのは、三角に切って真横から見た絵です。断面がきれいに見えたのはよかったのですが、いきなり真横だと急に視点が変わってしまって、子どもにはわかりにくいように感じました。それで、真横からの絵はボツにして、今度は斜めから描いてみたんです。視点の移動がスムーズで、かつ断面も美しく見えてよくなりました。

 ただその絵では、耳も切り落としていたのですが、それがちょっと問題で。「バターを塗って」「レタスをのせて」と、一場面にひとつの行動というリズムで進んできていたのに、この場面だけ「耳を落として」「二つに切って」とすると、リズムが壊れてしまうように思ったんですね。そこで最終的には耳はそのままに、二つに切っただけのシンプルな構成にしました。

最終的には、耳は落とさず斜めに二つ切りにした。 『サンドイッチ サンドイッチ』(福音館書店)より

明るく元気な気持ちで描く

―― 『サンドイッチ サンドイッチ』以降も、『おべんとう』『カレーライス』『めん たべよう!』など、定期的に食べ物の絵本を描いている小西さん。写実的でありながらも、あたたかみが感じられる絵が魅力だ。

 画材で一番よく使うのは、アクリルガッシュ。アクリルベースの不透明な絵の具です。それから色鉛筆と水彩絵の具も使いますね。たとえばレタスのひらひらは色鉛筆で輪郭をとって、水彩絵の具で塗りました。水彩だと透明感が出すぎるので、アクリル絵の具を重ねたりもします。『サンドイッチ サンドイッチ』のハムの絵では、オイルパステルも使いました。ハムの塊の表面のねちっとした感じを出すのにオイルパステルを塗って、ヘラで塗りこんで、最後はサンドペーパーで削るんです。この技法は他の絵本でもよく使っています。

クライマックスの盛り付けの場面、幻のボツ案。ボツの絵もすべて、本番に使えるレベルで描き込み、色を塗った

 食べ物を描く上で一番心がけているのは、明るく、元気な気持ちで机に向かうこと。食べ物はエネルギーの素だから、そのもの自体がエネルギッシュですよね。それに負けない絵を描くためには、自分自身がエネルギッシュでいないといけないと思うんです。でもあまりハイになると独りよがりな表現になってしまうので、ハイになりすぎず、明るくエネルギッシュな感じに自分を持っていく。描くときは、そういう気分に合うBGMをかけるようにしています。クラシックならモーツァルトでもシューベルトでもなく、ビバルディやスカルラッティがいいですね。それから意外と合うのがハワイアン。ゆったりと陽気な気分になれるので、食べ物の絵に合うんですよ。

―― 昨年は、奈良の春日若宮おん祭を題材にした絵本『おんまつり』(文・岩城範枝、たくさんのふしぎ2020年12月号、福音館書店)の絵も描いた。見どころは、細部まで丁寧に描き込まれた色とりどりの装束だ。これからも、食べ物の絵本だけでなく、いろいろな絵本を作っていきたいと語る。

 『おんまつり』は何度も泊まりがけで奈良に通って、取材を重ねて描きました。大型図鑑絵本『いきものづくし ものづくし』12巻では、世界の民族衣装を描いています。食べ物の絵本だけなく、まったく違う絵を描くことで、気持ちが切り替わるんですね。それが私にとってすごく大事なことで。惰性で描くと、それは絶対に絵のどこかに出てきますから。新鮮な気持ちで描くためにも、いろいろな仕事をしていきたいですし、そういう仕事をいただけることにとても感謝しています。

 次に作りたいと思っているのは、動物を主人公にした明るい冒険物語。今まで全然やってこなかったような、スコーンと突き抜けたお話にしたいなと構想を練っているところです。小西さんがこんなの描くの?と驚かれるようなものにするつもりなので、楽しみにしていてください。