京都を題材とする小説を公募する京都文学賞の第1回受賞作、松下隆一さん(57)の『羅城門に啼(な)く』(新潮社)が刊行された。
松下さんは、NHKドラマ「雲霧仁左衛門」などを手がけたベテラン脚本家。京都・太秦にあった「KYOTO映画塾」でシナリオを学んで以来、関西を中心に活動してきた。だが、「映画界はヒットした漫画などを原作にすることが多くなり、オリジナルの脚本の仕事は減ってしまった」。これでだめなら田舎に帰ろうと、畑違いの小説に挑戦し京都文学賞に選ばれた。
舞台は、疫病がはびこる平安京。逃げ出した奴婢(ぬひ)のイチは生きるため、盗みに殺しに悪行の限りを尽くす。ある時、捕縛され斬首されるところを空也上人に救われる。その教えに従い、捨てられた身重の遊女を助けて世話をするようになるが、女はかつてイチが押し込み強盗に入った家の生き残りだった。
映画塾では「身の内から出てくるものを書け」とたたき込まれた。「『暗いと売れないよ』とも言われるけれど、生き死にのギリギリにいる人間を描いていきたい」(上原佳久)=朝日新聞2021年1月27日掲載