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「姫と騎士たち」山本白湯さんインタビュー 漫画サークル男女の青春模様、ツイッターで大反響

文:篠原諄也 漫画:(c)Sayu YAMAMOTO

漫画を描く女性が周りにいなかった

――「漫画サークルの姫」が主人公の『姫と騎士たち』を描いたきっかけを教えてください。

 ツイッターで漫画を発表していて、ちょっとバズったりしたこともありました。ツイッターでは、たくさんの人が漫画を見てくれやすいですね。タイムラインにたまたま流れてきたから読むという人も多いと思います。

 そんな時に自分が「こんな漫画を読みたいな」と思ったものを描きました。今はインターネットの普及で、漫画など何かを作る人がプロアマ問わず増えているように感じています。だから何かを作る主人公にしようと思いました。漫画を描く女性は私の周りではあまり見たことがなくて、こういう女性が活躍する話が見たいと考え、サークルの姫の設定にしました。

――姫以外の部員の「騎士たち」も個性的なキャラクターですね。

 姫は漫画の才能があって、サークルの真ん中にいる人です。その周りにいる人も、同じコミュニティーにいるってことは、結構すごいんじゃないかなと思うんですよ。絶対戦う力があるなと思って「騎士たち」にしました。遠くから見ても誰だとわかるくらいの個性を出したかったです。

――姫が騎士たちに守ってもらうという構図ではなくて、誰もが姫や騎士になりうると考えているそうですね。

 呼び名が姫や騎士というだけで、誰もがそうした性質を持っていると思うんです。読む人が誰が姫で誰が騎士かを決めてもらえればいいかなと。

――特に入部してきた新しい姫と言える「塩さん」は、姫であり騎士である「姫騎士」だとしていました。

 塩さんは別に姫でもいいんですけど、器用なので騎士のように姫(谷崎)を守ってあげるような気持ちもある。タイトルで全部がわかるといいなと思ったんですけど、「姫騎士」は塩さんにぴったりだなと思いました。

それぞれが抱えるコンプレックスと不安

――塩さんは実は子どもの頃に家庭で孤独を感じていたことが描かれていました。親が妹ばかりを可愛がり、全然相手にしてくれなかったと。

 漫画の中に幸せな登場人物ばかり出てきたら、私自身は感情移入できないタイプなんです。もう私が応援しなくてもいいか……みたいな。家庭の問題に限らず、誰もが多かれ少なかれ、自分の問題を抱えていると思うんですよ。そうした人たちが、読んで頑張ろうかなと思ってくれれば、一番いいかなと思います。

――コンプレックスや不安感を持っている人たちが変化する様を描いていました。たとえば、美術サークルの巻さんは、最初は外見に無頓着でしたが、恋愛をすることでファッションやメイクを気にするようになります。

 私自身が単純に変わっていく人が好きなんだと思うんですよ。女性が急に髪型変えてきたら、ドキっとしません? おおお!みたいな。そういう外見の変化が立て続けに起きる漫画ってあんまりないかなと思って。自分の漫画で欲望を出した感じですね。

――雰囲気がガラッと変わった巻さんに対して、会長は「いかんいかん、外見で人を判断しては」と考えながらも、惹かれていきますね。

 外見の変化は出てきたほうがわかりやすいかなと…。内面の変化って、意外と人は気がつかないと思います。どういう気持ちで、どういう過程で行動していても、人の目に最初に映るのは、結果や行動だと感じています。そのあとで真意をわかってもらえることもあるとは思いますが、自分自身も含め、わかりやすいところで評価してしまうものではないでしょうか。

 (外見について)今はSNSの普及もあって、多様な価値観がある。痩せればいい、可愛い格好をすればいい、ということじゃない気がするんですよね。巻は可愛くなりたいという方向に向かって努力し、行動していった。一方、会長は別にイケメンになりたいとは思っていなくて、本当に自分を好きになってくれる人が現れたらそれでいいと思っている。外見をよくしようというよりは、自分がこうなりたいなと思う方向に向かっていくのが絶対いい、と思います。

――山本さんご自身も大学生時代に漫画サークルに入っていたそうですね。

 そうですね。ほとんど幽霊部員でしたけど。「姫騎士」みたいなドラマがあると思って入りました。時には大喧嘩もしつつ、お互いに漫画の才能を磨いていくのが漫研だと思ってたんですよ。でも、ドラマはなかったです(笑)。

――ご自身の経験を生かしたというよりは創作でしたか?

 登場人物たちのような、誠実な学生だったとは、おこがましくて口にできません。漫画家になるかどうか決めようと思っていた4年間だったので、ずっと漫画を描いていました。結局、何度も漫画を投稿したのですが、全然ダメだったので、就職しました。

 「姫騎士」で描いたような漫画サークルだったらよかったなと思いました。ただ、人間関係を通じて社会に出る準備をしたという点では共通しているのではないでしょうか…。大学生活でしかできない経験が、たくさんあったと思っています。

もう一度、創作に向き合いたいと思えたら

――山本さんにとって漫画とは?

 『らーめん才遊記』(作:久部緑郎、画:河合単、小学館)のセリフのパクリなんですけど、漫画は「ワクワク」です。(ラーメンのプロフェッショナルの)芹沢社長が主人公の汐見ゆとり(新入社員)に「ラーメンとはなんですか?」と聞くんですよ。それにゆとりがラーメンは「『ワクワク』なんです」と答えるんです。後から芹沢社長は、ラーメンとは「フェイクから真実を生み出そうとする情熱そのものです」と表現しました。

 これは漫画と一緒じゃないかなと勝手にそう思っています…。何もないところから何かを生み出すことは、すごく情熱がいることで、本当に本質をついた言葉だなと思ったので。漫画を読むことで「いいな」と感動する。そういう気持ちをお届けしたいです。

――『姫と騎士たち』はどういう人に読んでほしいですか?

 何かを作る人に読んでもらえたらいいですね。大学に入って漫画制作をどうしていこうかなと悩んでいる人、社会人でサークルや大学生活が懐かしいなと思う人。塩さんのように、家庭のコンプレックスを抱えながら生きていて、私生活がうまくいかない女性も多いと思います。プライベートに追われて、創作に向き合えなくなっていく。そういう人が姫騎士を読んで「もう一回描いてみようかな」「頑張ってみようかな」と思えたら、これ以上うれしいことはありません。

――今後のご活動の展望を教えてください。

 今はAMさまで「ときめき漫画倶楽部」を、ケイクスさまで「恋愛マトリョシカガール」を連載中です。もっと絵が上手くなれたらなと思います。たくさんの人が読んでくださっているので、もっともっと楽しんでもらえる漫画にしていきたいです。

 絵も話も素晴らしい作家さんたちがたくさんいて、書店でもWEBでも漫画がずらっと並んでいるこのご時世に、書籍で本作品を形にしてくださったことに感謝しかありません。今後も細く長く漫画を描いていければと思いますので、暇なときにでも読んでいただければ嬉しいです。