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「限りなく繊細でワイルドな森の生活」 書評 隠れ住んで知った自然のいのち

評者: 長谷川逸子 / 朝⽇新聞掲載:2021年03月27日
限りなく繊細でワイルドな森の生活 著者:内藤里永子 出版社:KADOKAWA ジャンル:エッセイ

ISBN: 9784046803153
発売⽇: 2021/02/17
サイズ: 18cm/169p

大切な人たちを亡くし、絶望したわたしは、標高千メートルの森の古家に60代半ばから10年間、隠れ住んだ。ところが、森にはおかしな事件がいっぱい起こって…。自然界のいのちと共…

限りなく繊細でワイルドな森の生活 [著]内藤里永子

 富山で大島絵本館(射水市)を設計してから、絵本や詩集を随分読んだ。その中に内藤さんの著書『絵本作家ターシャ・テューダー』があった。米国の絵本作家の仕事をまとめた本で、自給自足の農園での家族の風景も紹介されていた。また、数年前に映画「静かなる情熱 エミリ・ディキンスン」を観(み)て、孤独を選んだ詩人のことを知りたくなって、内藤さんが編集・翻訳したディキンスンの詩集を購読した。本書も内藤さんの著作と知り、タイトルに惹(ひ)かれ、読みだした。
 大切な人たちを50代で一斉に亡くし、嘆き、森の古家に10年間、独り隠れ住んだ記憶が記されている。
 追悼の日々で死者のことしか考えられなかったが、人間社会を逃れて入った森で、著者は、森のいのちたちと繊細でワイルドな生活を始める。森では、思いもよらぬものに言葉ではない言葉で話しかけられ、働きかけられた。「すべては、自然のものたちにいのちがあるという知らせだった。あのときから、わたしは森のいのちたちと付き合いはじめたのだ」と。
 また、人生で出会った大切な人たちのことが描かれている。山仲間で共に詩を訳した吉田映子(あきこ)さんは、「詩を訳すときの準備は、頭の中の言葉の海を揺らしておくだけ」と素敵な言葉を発した。『笑いのコーラス イギリス滑稽詩画帖』(内藤編、吉田訳詩)も森の小屋で生まれた。そこはまさしく翻訳小屋だった。親友だった彼女との死別、大学時代の恩師だった串田孫一さんとのこと、絵本『やまのかぜ』の作者でたくさんの生きものたちを描いた木葉井(きばい)悦子さん、作家の矢川澄子さん、児童書編集者米田佳代子さんのことなど……。
 戦後、原っぱで遊び、中学生の頃、植物学者になりたくて森で植物採集に明け暮れていた私は、森のリアルな生活に惹かれるものがある。そして母が野花を透明な瓶に挿し入れ、机にたくさん並べて絵を描いていたことも思い出された。

    ◇
ないとう・りえこ 1937年生まれ。翻訳者。詩人。共著『一夜だけの詩遊び』。訳書『ターシャの農場の12カ月』。

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