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谷川俊太郎さんの詩「うそ」が絵本化 自分が信じられる視点や正解を

文:日下淳子、写真:主婦の友社提供

心をえぐられる感覚があった

――谷川さんの「うそ」という詩を、どんなふうに絵本の形にしていったのですか?

 谷川さんの詩を拝見した時、詩というものに触れた経験値が少なかったこともあって、すごく心をえぐられるような感覚を覚えました。詩の中で「うそをつくことへの覚悟」を感じる反面、そこまで自分がうそと向き合ってこなかったという不安もあって、自分自身が揺さぶられました。

 物語ではなく、心情の描写が語られていく詩に対して、最初はどんな絵がいいのか迷ったんです。谷川さんが「詩は説明しちゃいけないものだ」とおっしゃっていて、ぼくにも同じ思いがあったので、そこはすごく意識しました。うそに対しての比喩表現や、「うそでしかいえないほんとうのことがある」といった人それぞれ受け取り方が違う言葉に対して、どういう絵を添えると、よりその文章が匂い立つのかを、考えていきました。

『うそ』(主婦の友社)より

 たとえば、「うそをついても うそがばれても ぼくはあやまらない」という言葉には、揺らぐ水たまりに顔を映している少年の様子を描きました。この言葉に強い決意を感じますが、本人はどこか心が揺らいでいることもあると思うんです。謝らないということも本当は怖いだろうし、苦しいだろうし、そういう思いを、地面と水の二面性や、水たまりの揺らぎや、自分の顔のゆがみとリンクさせて考えました。

自分を信じられる価値観が大事

――中山さんは「うそ」というものをどのように捉えていますか?

 今の世の中、正論で片づけられないことばかりだと感じます。うそが正しくないとか悪いという考えはなくて、自分が信じられる視点や正解を持てれば、それでいいのではと感じます。それがたとえ周りと違ったり、「うそだ」と言われたとしても、自分が自分を信じてあげられる価値観が大事なのかなと思っています。

 大人になればなるほど、矛盾していることや醜いものを直視しなくちゃいけない時間が増えていきます。同じ事柄を伝えても、ある人にとっては「ほんとう」だけれど、ある人にとっては「うそ」にも見えるというように、人によって見方や価値観も違うと思っています。

『うそ』(主婦の友社)より

大人のほうがぐっとくるかも

――概念的な考え方を絵本にするおもしろさは、どんなところにあると思いますか?

 ぼくはいろいろなイラストの仕事をしているのですが、たとえばポスターの仕事は、大きな花火を打ち上げるような、見た人に瞬間的に強いインパクトを残すビジュアルを意識しています。それに対して絵本は、時間をかけて表現を沁み込ませていくという感覚で作っています。最初に大きな花火をあげすぎると尻すぼみになっちゃうので、スタートから終わりまで全部、どういう流れにするかを考えて作る、そういうところがおもしろかったですね。はじめて手に取って読んだときに、ちゃんと心に入ってくるものになっているかという視点も大事にしています。

 この本は、正解を提示するものではありません。ただ、絵本としてみなさんの目に触れたときに、自分にとってうそがどういう存在だったのかを考え直すきっかけになる本ではないかと思います。ぜひ大人にも読んでほしいですね。大人のほうがぐっとくるかもしれません。仕事や人間関係など、日常生活の中できっと多かれ少なかれ、だれしもうそをつく瞬間があると思います。ぜひこの絵本が、うそについて共感したり、考えるきっかけになったらうれしいです。

【谷川俊太郎さんのコメント】

 この「うそ」という作品は、大人である自分の意識下にひそむ子どもを言葉にできないかという発想で、連作のような形でしばらく書き続けた詩の中の一篇です。今回絵本化の話を聞いたとき、絵本にできたらおもしろいだろうと思いました。最初のラフを見て、予想しなかった絵の展開にびっくりもしましたし、読者はどうとらえるか不安でもありました。でも結果的には、おもしろいものに仕上がったと思います。

 日常生活の場面では、うそをついたらできれば後でバレないように考えますが、確信犯的に最後までうそをつき通すほうが相手を傷つけずに済むと考えることもあります。子どもたちは、うそをつきうそをつかれる経験を通して、傷つきながら自分で「うそ」というものを覚えていくしかないと思っています。もし子どもに、「うそといっしょに生きていく」とはどういうことなのか問われたとしたら、「まず君はどういうことだと思う?」と問いかけます。一問一答で済むようなテーマではないので、そこから親子の関係を探るしかないでしょう。