女子高時代の同級生の死をきっかけに久々に集まった3人組。所有するアパートの居室で孤独死した彼女の遺言書には、店子の男子大学生を卒業まで住まわせる条件で3人にアパートを相続してほしいとの願いが記されていた。
特に親しくもなかった同級生の奇妙な依頼に3人は当惑する。なぜ自分たちに? 彼女と大学生の関係は? 謎めいた導入部から、物語は3人の人生に分け入っていく。
1963年生まれの彼女らは皇后雅子さまと同い年。四大卒なら男女雇用機会均等法施行の年に社会人となった世代だ。夢見る頃を過ぎ、それぞれに立ち向かうべき現実があり日々の生活がある。そこに投下された遺言書が彼女らの心にさざ波を起こす。
揺れ動く心情を細やかにすくい取る一方で、雑事の積み重ねである日常の描写もおろそかにしない作者の筆致は巧み。言葉ではなく行動で示される友情も美しい。アパートの庭に咲く白木蓮(はくもくれん)の花言葉は「高潔な心」。それが隠し香として全編に漂い、死んだ同級生と3人が時を超えてつながる場面に胸を打たれる。
四十男と老父の同居を描いた同時発売の『いいとしを』とは表裏一体。時代の空気を映す滋味深い2作である。=朝日新聞2021年4月3日掲載