2040年の日本が小説の舞台。富士山が噴火し、火山灰に覆われた東京はスラム化する。物語は、16歳のユキが中国人エリート女性の子を代理出産したところから始まる。
女性が直面する社会問題を題材にした『うちの子が結婚しないので』『老後の資金がありません』などの小説で人気がある著者が今回選んだのは、日本では認められていない代理母だ。なぜなのか。「たまりにたまった男社会への怒りですかね。このまま少子化が進めば、遠からず日本人は消滅するでしょう」。そんな思いから構想が膨らんだという。
ユキは代理母あっせんビジネスを始める。そこにやってきたのは、28歳独身のIT企業開発部長、美佐。10年間の不妊治療で身も心もボロボロになった39歳の麗子。約20年後の日本のはずなのに、彼女たちが抱える悩みが現代と変わっていないのがそら恐ろしい。
美佐は言う。結婚には絶望しかないが子どもは欲しい。働き続けたいが、おなかの大きい女性を見下す上司や部下の男を散々見てきた、と。麗子は言う。後継ぎが必要だ、子どものいない女はどこか欠けていると夫や姑(しゅうとめ)から責められている、と。
そして著者は「この作品は仮定のifじゃなくて、本当に差し迫った現実」だと語る。作家になる前、ソフトウェア会社に20年ほど勤め、共働きで子ども2人を産み育てた。「女性が男性と同等に働こうと思うと、出産がネックになる」と感じたことが本作にもつながっている。
妊娠出産は女性の命にかかわるデリケートなことなのに、男性目線や非科学的な古い考えが幅をきかせている現状が本作から見えてくる。そこを凝視することで、著者が作品にこめた「縛られないで女性がもっと自由に生きる」すべが見つかるのではないだろうか。(文・久田貴志子 写真・倉田貴志)=朝日新聞2021年4月17日掲載