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中村文則さんの連載小説「カード師」が書籍化 悪くなっていく世の中で「祈りのようなものを書く必要があった」

中村文則さん

 朝日新聞の連載小説を書籍化した中村文則さんの新刊『カード師』(朝日新聞出版)は、連載途中で世界を覆ったコロナ禍の衝撃を、執筆しながら物語に反映させていった小説だ。手のひらを返したように一変した世界を作品に取り込んでいった連載当時を「妙な感覚の中で書いていた」と振り返る。

 主人公は占いを信じない占い師だ。かつて目指していたのは手品師。今は違法カジノでポーカーゲームのディーラーも務める。ある組織の指令で近づいた男から、「近い未来の何かを当ててくれ」と要求される。

 時空を超えて様々な人生が交錯する物語は、ある時点を境にコロナ下に入る。「連載の読者は、ストーリーに現実が入ってくる経験をしたと思う。日常ががらっと変わってしまったあの感覚は、小説として残しておくべきだと思った」

 だが実は連載開始から2カ月後、コロナ禍が世界を覆う前の2019年末の段階で、すでに作品にはペストという言葉が登場し、疫病が物語の一つの要素になっていた。「時々、こういうことが起こるんです。現代の流れのようなものを書いていくと、ちょっと(時代の)先に筆が滑る」

 「世界の本質は、カードの表裏に近い」と話す。カードをめくるまでは、明日、世界がどうなるかはわからない。一方、それゆえに、作中では〈本当は、誰も完全に絶望することはできないんだ〉と力強く語られる。

 「先のことがわかれば悲劇を避けることができる。けれども、それはわからないから、絶望もできない。同じことだけれど、意味がまったく反転する。(世の中が悪化しても)絶望するにはまだ早いんです」

 題材となった占い、カード、手品に共通するのは「現実を変えたい」という願望だという。「占いは、自分の人生を良くするため。カードは、ポーカーでいうとゲームをコントロールして、現実を少し凌駕(りょうが)したいから。手品は、目の前の現実ではないものを見たいから」

 そこに込められた願いは、人類の永遠の祈りでもある。「これから世の中は悪くなります。これは断言です。悪くなるが故に、小説として祈りのようなものを書く必要があった」(興野優平)=朝日新聞2021年5月12日掲載