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「AI・兵器・戦争の未来」「知能化戦争」 自律した攻撃が人類に向かう日 朝日新聞書評から

評者: 阿古智子 / 朝⽇新聞掲載:2021年05月15日
AI・兵器・戦争の未来 著者:川村 幸城 出版社:東洋経済新報社 ジャンル:国防・軍事

ISBN: 9784492444597
発売⽇: 2021/03/23
サイズ: 20cm/440,52p

知能化戦争 中国軍人が観る「人に優しい」新たな戦争 著者:龐 宏亮 出版社:五月書房新社 ジャンル:産業

ISBN: 9784909542335
発売⽇: 2021/04/01
サイズ: 22cm/325p

「AI・兵器・戦争の未来」 [著]ルイス・A・デルモンテ/「知能化戦争」 [著]龐宏亮

 人工知能(AI)兵器、知能化戦争に関する2冊の邦訳書を、それぞれの著者であるアメリカの専門家と中国の軍人の視点から比較しつつ読んだ。
 2冊は共に、戦争のあり方が変化する分岐点に、選択を誤ると大問題になると示唆する。
 大規模なピラミッド型の軍隊組織が不要となる知能化無人システムにおいて、人員とコストは大幅に削減でき、核兵器の有効性は低下するだろう。一方、小規模で分散し、ネットワーク化された組織では、テロ、サイバー攻撃、無人兵器による攻撃が新たな脅威になる。小型化技術(ナノ兵器)は敵の指揮所に入り、監視や暗殺を行う。
 AIを規制する法律が整備されないまま、シンギュラリティ(AIが人間の認知能力をしのぐ段階)に差し掛かると、超絶知能は自ら兵器を使い、人類を根絶するかもしれない。
 中国の軍人は「中華民族の偉大な復興」には強大な軍隊が必要で、理論を導くため本書を記したという。だが、党軍である人民解放軍が使う自律型兵器は、共産党の指導にも背き得る。
 アメリカの専門家は「我々にとって最も手ごわい敵たちが、人間が操作する兵器を上回る自律型兵器を持つ場合、アメリカは軍事的優勢を保持することができるか」と自国の視野からも問いを立てるが、全体的には、AI時代の人間社会を俯瞰(ふかん)しようとする。彼の見解では、国連は自律型兵器の規制に失敗し、アメリカ、中国、ロシアは2050年までに、人間レベルの自律性を備えた自律型兵器を配備する。これらの国々は既に、宇宙空間での軍事活動を制限する宇宙条約にも違反している。
 2080年にシンギュラリティが来るとして、相互に戦いを挑まないというシナリオは描けるのかとも問う。でなければ地球上の生命は絶滅する。人類のほとんどが戦争は時代遅れで、国防費は無駄だと考えるなら、「不安定な平和」をもたらした冷戦時代ならぬ、「凍結された戦争」の時代が訪れる。ただ、超絶知能は人類の関与を排除するために、人権の定義を変更するかもしれないのだ。
 日本がAI分野のイノベーション(革新)で後れを取るのは、リスクや異端を排除しようとする官僚主義的な呪縛から抜け出せていないからだという、防衛研究所特別研究官の解説が印象に残った。街のおっちゃん、おばちゃん、子どもまでが日々の試合を論評する「阪神ファンの応援心理」で、安全保障論議の裾野を国民レベルに広げるべきだという彼の意見にも説得力がある。AI時代の行方を的確に読まなければ、日本の安全保障に未来はない。
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Louis A. Del Monte 物理学者、作家。IBMなどで米国防総省の技術開発に長年従事。著書『人類史上最強 ナノ兵器』▽ほう・こうりょう 中国の国防大学国家安全学院副教授(戦略学)。