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「権力分立論の誕生」書評 モンテスキューの謎を解明する

評者: 犬塚元 / 朝⽇新聞掲載:2021年05月22日
権力分立論の誕生 ブリテン帝国の『法の精神』受容 著者:上村 剛 出版社:岩波書店 ジャンル:社会思想・政治思想

ISBN: 9784000614603
発売⽇: 2021/03/25
サイズ: 22cm/338p

「権力分立論の誕生」 [著]上村剛

 膨大な史料調査によって政治思想史の謎を解明した労作。学術書らしい慎重な分析を読み進めると、思想史の新しい光景が広がる。
 三権分立といえばモンテスキュー。これが中学や高校の教科書の定番だが、専門家たちは以前からこの説明に否定的だった。身分制に立脚したモンテスキューの制度論と、現代の権力分立論は大きく違うからだ。
 本書もここが出発点だ。王だけでなく各身分の代表が集まって協調して立法する「混合政体」。権力集中を防ぐため権力を分ける「権力分立」。モンテスキューはこの二つをけっして区別しなかった。同時代人はだれも彼を三権分立の思想家とは理解しなかった。
 では、権力分立論はいつ生まれたか。モンテスキューを権力分立と結びつける解釈はいかに生まれたか。本書が解くのはこの謎だ。
 分析の白眉(はくび)は、ブリテン帝国の植民地に権力分立論のルーツを発見した第2部。歴史学における帝国史の潮流をふまえた成果だ。
 本国と違い植民地は身分制にもとづく政治制度を欠いた。そこで権力を区分する思考が育つ。アメリカでは本国と植民地の対立が、王の執行権と植民地議会の立法権の対立と理解された。インドでは植民地議会の暴走を抑えるため、裁判所に拒否権が与えられた。
 こうした新しい動向に伴って、モンテスキューを権力分立論の先駆とみなす解釈も登場する。それを受容した建国期アメリカで、権力分立論は抑制均衡論と結びついて現在の姿となる。本書は、様々な時代状況のなかで思想が読み替えられてダイナミックに変転する過程を巧みに描き出した。
 三権分立は民主主義の基本原理。これも教科書の定番だが、昨今の政治学が強調してきたように、議院内閣制では大統領制と違って立法と行政は融合する。平成の政治改革はさらに権力を過度に集中させた。権力分立や抑制均衡の様々な模索を追跡した本書は、制度設計の構想力を刺激する。
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かみむら・つよし 1988年生まれ。専門は政治思想史。日本学術振興会特別研究員PD(法政大学)。