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庵野秀明氏の内面を描く「エヴァ」 新劇場版での変化は

横浜市の映画館「T・ジョイ横浜」にはエヴァンゲリオン初号機のフィギュアが登場した=筆者撮影、©カラー

 映画「シン・エヴァンゲリオン劇場版」が大ヒットしている。

 今作で完結した「エヴァ」シリーズは、1995年のテレビアニメから始まった。ロボットアニメでありながら、主人公シンジの自己承認の物語として描かれているのが特徴だ。

 シンジは、幼い頃自分の元を去った父・ゲンドウに命じられエヴァ操縦者になる。父に認めてもらいたい一心だったが、父から非情な命令を受け、心の殻に閉じこもってしまう。

 「エヴァ」を手がけた庵野秀明監督は、2007年から旧作の物語を再構築した「新劇場版」を発表し始める。物語の大筋は旧作と同様だが、登場人物の中でも、「大人」の描き方に変化が見られた。旧作での大人たちは感情を制御できず、シンジに無理を押しつける場面もあった。だが「新劇」ではシンジが取る行動に責任を持つ大人へと変化を遂げていた。

 作品は庵野氏の内面を投影したドキュメンタリーにも見える。新劇場版の変化は、自身が「大人」になった変化でもあるだろう。シンジ役の声優・緒方恵美氏の自伝「再生(仮)」によると、庵野氏は「昔の心理はシンジに近かった。でも今はゲンドウのほうに近く」なったという。

 この最終作でシンジが向き合うのは、ゲンドウ。父は自分の妻をよみがえらせるためだけに人類を滅亡させる計画を実行しようとし、親子は対決することになる。

 物語の終盤、ゲンドウは、初めて息子に心情を吐露する。彼もまた、他人と関わって傷つくのが怖いからすべてを遮断していたという。かつてシンジに「大人になれ」と言った彼は、本当は大人になりきれない大人だった、という描かれ方だ。

 シンジは、そんな父に対して、自分の弱さを認める大切さを伝えた。それがシンジの成長であり、庵野氏の気付きでもあるのだろう。両者は、庵野氏の中にいる少年と大人だとも言える。

 「大切な人に認めてもらいたい」。私たちもまた、エヴァを通して自分を肯定する術を見つけた。25年の歳月が可能にしたシンジの再起は、庵野秀明というひとりの人生を投影した物語の終幕にふさわしい。=朝日新聞2021年5月25日掲載

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 エヴァンゲリオン テレビアニメ版はちりばめられた謎が話題になり社会現象になった。再構築版の映画は4作品が作られた。