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光文社・三宅貴久さんがつくった「バッタを倒しにアフリカへ」 研究の苦労を笑いに、のけぞる面白さ

 異国で民族衣装をまとい、バッタの研究をしているという前野さんのことを知ったのは、偶然目にした新聞記事だった。著書『孤独なバッタが群れるとき』を読むと、抜群に面白い。自然科学の研究書とは思えないギャグや小ネタ、研究するサバクトビバッタの生態も興味深い。一方、博士号取得の苦難、就職への不安も吐露され、若手研究者の成長物語のようでもあった。

 執筆依頼をすると、ちょうどアフリカ西部モーリタニアから帰国するという。ご本人に会うと、書籍の破天荒な印象とは異なる穏やかさ。考えながらゆっくり言葉を発する方だった。

 原稿をもらったのは、それから3年半後の2016年。あまりの面白さにのけぞった。昆虫記、研究者の仕事論、モーリタニア紀行、異文化交流など様々な要素が含まれている。異国での研究生活にはかなり苦労もあるはずだが、すべてに笑いがまぶしてあり、原稿を繰(く)る手が止まらない。

 当初は新書の通常カバーにするつもりだったが、前野さんに感化されたのか、イタズラ心が湧いてきた。ハロウィーンでバッタに扮した彼の写真を使った表紙案を作り、恐る恐る社内で意見を聞く。好評だった。その後、本書は新書大賞を受賞、20万部を超えた。

 前野さんはこの4月、国際農林水産業研究センターの主任研究員になった。世界の食料危機を防ぐためのバッタ研究が、一段と進むことを望んでやまない。=朝日新聞2021年6月2日掲載

 ◇みやけ・たかひさ 70年生まれ。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』などを編集。

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