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「病と妖怪」書評 妖怪たちの正体を解き明かす

評者: 宮地ゆう / 朝⽇新聞掲載:2021年06月12日
病と妖怪 予言獣アマビエの正体 (インターナショナル新書) 著者:東郷隆 出版社:集英社インターナショナル ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784797680713
発売⽇: 2021/04/07
サイズ: 18cm/190p

「病と妖怪」 [著]東郷隆

 新型コロナウイルスとともに突如現れた「アマビエ」。長い髪に3本の足、くちばしにうろこという奇妙な容姿に、子どもが描いたような「へたうま」さで、人気になった。だが、こいつはいったい何者なのか。
 時代小説家の著者は、アマビエの出自を追い始め、さらに江戸末期から昭和期に登場した妖怪たちの正体を解き明かしていく。多くが、災難を免れると絵やお札などを売る「マルチ商法」の一環だったようだ。
 興味深いのは、コレラや赤痢の流行といった厄災を予言していた妖怪が、いつの間にか日露戦争の勃発や第2次世界大戦の敗戦まで語り始めることだ。こうなると、政府は黙っていない。牛のような妖獣が発生源のうわさまで、当局が真面目に調べたという。
 言論統制をくぐり抜け、世論を代弁してきた妖怪たちだが、生存競争は厳しい。生き残るのはかわいい容姿のものだけという。現代のアマビエが次第にデフォルメされたのも当然か。