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砂原浩太朗さん、2作目「高瀬庄左衛門御留書」 へとへとの15年を経験、ぽろりと出てくる言葉がある

砂原浩太朗さん=2021年4月30日、東京都文京区、興野優平撮影

 〈人などと申すは、しょせん生きているだけで誰かのさまたげとなるもの(中略)されど、ときには助けとなることもできましょう……均(なら)して平らなら、それで上等〉

 デビュー2作目でこの夏の直木賞の候補になった砂原浩太朗さんの『高瀬庄左衛門御留書(たかせしょうざえもんおとどめがき)』(講談社)は、思わず己の半生を顧みてしまうような、滋味深い言葉に出合える時代小説だ。不慮の事故で息子を亡くし、朽ちるのを待つばかりだった郡方の庄左衛門は、息子の嫁、志穂の相談ごとをきっかけに藩の政争に巻き込まれ、自身も変わっていく。

 30歳でやめるまで、出版社で文芸書の編集者をしていた。集中して執筆したいとフリーランスに転向したがかえって仕事に追われ、デビューまで15年かかった。「家で仕事をしていたから、ご飯を炊いたり掃除洗濯をしたり、ゴミを出したり、無限に続くルーチンの上に生活が成り立っていることをしみじみと感じた」

 「時代小説を書くには人生の年輪が必要だ」と思っていたが、編集者からの勧めで挑戦した。「重ねてきた歳月から、ぽろりと出てくる言葉がある。たぶん30代では書けなかった。へとへとになった15年の経験も、いま振り返れば無駄ではなかったと思えます」(興野優平)=朝日新聞2021年6月16日掲載