一体なにごとかと思うほど重たい荷物の正体は、写真家森山大道の最初期から二十二年分のプリントがアーカイブされた写真集。そう理解した途端、六センチの厚さが腑(ふ)に落ちた。
判型、重さ、表紙の手触り、段ボール製のブックケース、印刷技法、ページ、ページ、ページ。物質としての本書が、わたしの知る森山さんの印象をあまりにも的確に表現していることに驚く。この本を傍(かたわら)に置けば、写真家を目の前にしたとき受ける印象を疑似体験できるに違いない。そんな佇(たたず)まいの写真集を作った造本家の町口覚さんは、ものすごい人だと思う。
コロナウイルス蔓延(まんえん)以降、写真はますます所在不明の空間に浮遊する実体なき存在になってしまったのではないか。そう憂う人には、本書の重さが嬉(うれ)しいはずだ。一九六〇年から八二年、若き写真家のモノクロ写真はみるみる洗練され、荒々しさを纏(まと)っていく。写真から命の匂いがする。そこに感じ取るのは意外にも、安堵(あんど)と優しさだった。=朝日新聞2021年6月19日掲載