1. HOME
  2. トピック
  3. 弁護士で作家の五十嵐律人さんインタビュー 「法律の面白さをエンタメ小説で伝えたい」

弁護士で作家の五十嵐律人さんインタビュー 「法律の面白さをエンタメ小説で伝えたい」

山本倫子撮影

 デビュー作『法廷遊戯』が昨年の各種ミステリーランキングで高評価を得た、作家で弁護士の五十嵐律人(りつ・と)さん(31)が、3作目となる新刊『原因において自由な物語』(講談社)を出した。「法律の面白さをエンタメ小説で伝えたい」と話すとおり、法知識に裏打ちされた巧みな構成のミステリーだ。

 「中学生のころ、特別な人になりたくて」。でもスポーツは得意でなく、絵が描けないから漫画も無理。小説ならと安易に思ったもののうまく書けない。勉強をがんばるしかないと覚悟を決めて東北大学法学部へ。そこで法律の面白さに目覚めた。

 「法律って論理的な世界で、数学のように美しい。でも中学高校でなかなか学ぶ機会がない。どうすれば魅力が伝わるかと思ったとき、小説で書けばいいんだと気づいた」

 ミステリー系の賞への応募を重ね、メフィスト賞を受けたのが『法廷遊戯』。司法試験の結果発表を待つ間に読み、「理系的な発想にひかれてハマった」という森博嗣さんの『すべてがFになる』が受けた賞だった。

 『法廷遊戯』は法律家を目指す3人の若者の物語。冤罪(えん・ざい)という重いテーマを扱いながら、ロースクールの模擬法廷と、数年後に起きた殺人事件をめぐるスリリングな法廷闘争との2部構成がかみあい、青春小説としても高い評価を受けた。

 「法律を主軸に置くと、社会派感が強くなるのですが、書きたいのはエンタメ小説。前半に魅力的な謎や設定を置いて、とにかく読者に最後まで読んでもらえるように心がけました」

 『原自(げん・じ)物語』と略される新作は、誰にも言えない秘密を抱えた人気作家が主人公。露呈すればすべてを失うにもかかわらず、書かなければならない「物語」に出会ってしまう。学校のいじめ解決に取り組む弁護士(スクールロイヤー)、見た目に点数をつけて恋愛相手を選び出すマッチングアプリといった近未来的な要素がちりばめられているが、過去作以上の緻密(ち・みつ)な構成で、読み手を翻弄(ほん・ろう)する。

 作家を主人公にしたのは「年末に弁護士になり、改めて小説がなぜ自分にとって特別なメディアなのかを考えたいと思って。主人公の葛藤は、自分のことも反映しています」

 弁護士としてはネットトラブル関係の業務に携わっている。「現代的な問題をはらみ、法制度の不備など学ぶことは多い。法律は社会とともに変化していくもの。書きたいテーマはまだまだあります」(野波健祐)=朝日新聞2021年7月31日掲載