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「ケアする心」書評 強いられているのは犠牲か愛か

評者: 吉田伸子 / 朝⽇新聞掲載:2026年03月14日
ケアする心 (エクス・リブリス) 著者:キム・ユダム 出版社:白水社 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784560090992
発売⽇: 2026/02/18
サイズ: 19.4×2.4cm/253p

「ケアする心」 [著]キム・ユダム

 ケア、という文字を見るたびに、ちょっと身構えてしまっていた。言葉としては、お世話と同義でありながら、纏(まと)っているニュアンスというか実態が、なんとなく異なる気がするのに、その違いをちゃんと言語化できない自分がもどかしくもあった。ごめんなさい、いつかちゃんと向き合います、と思っていた。だから、本書のタイトルを見て、飛びついた。これは、読まねば、と。
 けれど、読み始めてすぐ気がついた。本書のテーマは、ケアする心とは何ぞや、ではない、ということに。本書は、ケアと向き合っている(多くは強いられている)人々の、そのやり場のない想(おも)いや苦悩をそっと掬(すく)いとっている小説集なのだ。静かに、そっと語りかけてくるような物語なのに、読むほどに胸の奥が揺さぶられる。
 三部からなる構成は、作者いわく「第一部は、自分の選択とは異なるかたちで結ばれた関係の中での女性の人生、第二部は実際に子育てをしながら自分が感じたこと、第三部は故郷や身近な高齢女性の人生について書いた作品」とのこと。第一部から順に読んでもいいし、興味がある順に読んでいってもいい。
 個人的には、嫁という立場の主人公が、義実家で毎週末一方的にケアを押し付けられ、疲弊していく様を描いた第一部の「安(あん)」、表題作でもあり、ベビーシッターとしては申し分なく思えた六十代女性の〝もう一つの顔〟を知ってしまう主人公を描いた、第二部の「ケアする心」が、とりわけ響いた。
 本書に登場するケアを担う人々は、家族や愛という名のもとに、一方的に奉仕を要求されている。それなのに、そんな彼らをケアしてくれる人はいない。自分で自分を労(いたわ)る時間を持つことも難しい。どうすれば、彼らは安らげるのか。
 その答えを考えることが、私にとって、ケアとお世話のニュアンスの違いを言語化する、第一歩になるのかもしれない。
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Kim Yudam 1983年生まれ。韓国の作家。本書が初の邦訳。所収の「安」でキム・ユジョン作家賞受賞。
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小山内園子訳