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夢を「職業」にするチャンスをつかもう 小説家・今村翔吾さん@宮城県名取北高校

教卓に黒板。教室の空気を実感しながら語りかける今村翔吾さん

小説家という「職業」 その実態は

 今村翔吾さんを迎えたのは、卒業を控えた3年生の有志23人。人生の岐路に立つ面々を前に、「日本人の多くは〝将来の夢=職業〟だと思っている」と切り出した。

 今村さん自身は、将来は家業のダンススクールを継ぐものだと思っていた。インストラクターをしていたが、それは夢でもなりたい職業でもなかった。

『塞王の楯』(集英社)で直木賞を受賞して以来、今村さんの経歴は広く知られるようになった。ところが、「ダンスなんて嫌い! 下手だし」。

 小学生の頃から歴史・時代小説に夢中だった今村さんの夢は、「小説家になる」。とはいえ、どうやってなるのか、それで食べていけるのか、まったくわからなかった。生徒たちも同じだろう。そこで、作家という職業の実態を「ぶっちゃけます」。

 まず、何か小説を書いて、文庫本化されるとする。「作家に入る印税は10%。つまり1冊800円なら80円」と、今村さん。かりに8千冊売れれば64万円になる。「1冊2千円の単行本の場合、4千冊売れたら、2千円×10%×4千冊=80万円」。

 人気が出ると、新聞や雑誌、ウェブでの連載依頼も来る。「ウェブ連載なら仮に単価3千円として、原稿用紙400枚書いて120万円」。

 作家の年収をリアルにイメージできる話に、生徒たちも前のめりに。それだけではない。ベストセラー作家になれば印税率が上がり、コミック化やドラマ化、さらに映画化が決まれば……。

 夢が本業になり、作品が続々とドラマやアニメになっていく。ただ、わかったのは、いいことばかりではないということ。つきあいを断り、パソコンに向かう日々は、「刑務所にいるようなもの」。振り返れば独り。収入が増えても欲しいものがない。たとえ欲しかった車を手に入れても、そのあとは……。「寂しい。心が壊れた」

 そんなとき頭に浮かんだのが、書店経営だ。今村さんが唯一、買い続けたいと思ったのが本。「そうだ、本を買い集めて本屋を開こう。出版・書店業界への恩返しにもなる」

 いわば趣味への投資と始めた書店経営は、「ほんまる」(東京都)、きのしたブックセンター(大阪府)、佐賀之書店(佐賀県)の3店舗に及ぶ。

 作家業と書店経営を両立させる必要から会社も立ち上げ、今や専属社員は20人超。「チームを作って夢を追いかけよう!」。今村さんは独りではなくなった。

 さて、生徒たちの夢はどうか。なりたい職業を尋ねると、「教師」「看護師」「保育士」「陸上選手」など声があがったものの、いずれも自信なさそうだ。「かなうかどうかわからないことを、聞かれても困るよね。僕もそうやった」。

小説家がどう収入を得ているか、具体的に説明する今村翔吾さん

チャンスは君たちのほうがある

 「夢は小説家」と唱えるだけで、一歩も踏み出せなかった今村さん。転機は、家出を繰り返していたダンススクールの生徒との会話だった。

 今村「将来、なりたいものないの?」。

 生徒「パティシエ。でも、シングルマザーの親に負担をかけてまで、なりたい夢かな」

 今村「夢って言いながら、あきらめているやん!」

 いいこと言ったぞ!とドヤ顔の今村さんに、「翔吾くんだってあきらめてるくせに」。

 気づかされたのは今村さんのほうだった。「人生経験を積んでから」「50代でデビューした作家もいる」と、内心では言い訳ばかり。そのとき30歳になっていた。

 「君たちはそのときの僕より若い。つまり、夢をかなえるチャンスは僕以上にある」

 なぜ教師がいいのか。教える仕事は他にもある。看護師でなくても人助けする人になれる。スポーツで行き詰まったらスタッフという道もある、と。「いま一度、なぜその職業を夢にしたのか、考えてもらいたい」

 今村さんも振り返る。「小説家を夢見たのは、人を楽しませる仕事がしたかったから」。作家でなければM-1に挑戦していたかも、と笑わせ、40代に入った今の夢を語った。

 「ひとつは、世界で戦える作家になりたい。ライバルはJ.K.ローリング」。『ハリー・ポッター』の作者への挑戦状に教室は沸いたが、自著の『イクサガミ』(講談社文庫)は、動画配信サービスNetflixで映像化され、世界配信されるや週間視聴率1位を獲得。「もうひとつは、原作ありきの大河ドラマ」。いずれも根底にあるのは、「楽しませたい」だ。

 授業を終えて今村さんは、「子どもと大人の境目にいる高校生に、何かしらメッセージを残せたならよかった。熱心に聞いてくれてエネルギーをもらったよ。それにしても、教壇に上がると一人ひとりの顔がよく見えるね!(笑)」

授業を終え、生徒たちが持参した著書にサインをする今村翔吾さん

生徒たちの感想は

 浅野遙花(はるか)さん「読書が好きでミステリー小説にはまっているけれど、ほかのジャンルの本も読んでみようと思って参加。まさに歴史・時代小説を手にするきっかけになりました。まずは『イクサガミ』から攻めます!」

 髙橋瑛(あきら)さん「ダンスをしていたとき、生徒さんに言われた一言がターニングポイントになったという話が印象的でした。僕も何か大きな決断をするとき、チャンスをつかむとき、今日の話を思い出して判断したい」