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集英社・服部祐佳さんがつくった『人新世の「資本論」』 未来への処方箋がほしくて

 「時間がたつほど輝いて読者を魅(ひ)きつける本を名著と呼ぶなら『人新世~』もその域に達してきたよね」

 ある書評家にそんな言葉を頂戴(ちょうだい)した。実際、30万部を超えて売れ続け、新書大賞も受賞した。刊行時より今この瞬間に斎藤氏の紡いだ言葉はリアルに響く。

 ある面では悲しいことだ。「人新世」とは人類の経済活動が地球環境を破壊するこの時代を指すが、斎藤氏が描く「人新世の危機」(=環境危機)の行く末は胃が痛くなるほど悲惨だ。その未来予測を現実が追っかけている。気候変動による甚大な災害や酷暑は耐えがたい苦しみになった。グローバル化によるコロナ禍の拡大、人命よりも金だと強行された五輪、広がるばかりの貧富の格差。本書が批判する資本主義のもたらす災い全般が、日を追ってひどくなっている。

 問題はそこでどうするか、だった。処方箋(せん)がほしい。氏にそう告げた2年後に「答えが分かった」と電話があった。「資本主義を抜け出すカギは〈コモン〉(=共有財産)の民主的な管理にある」「〈コモン〉を壊すのが資本主義。だからそれを再建すれば本当の豊かさを取り戻せる」

 この〈コモン〉の再建という処方箋は読者が各自の現場で実現できるものだと著者は説く。この希望が読んだ人にパワーを与えている。先述の書評家も刊行直後にこう書いてくれていた。「この本を手にした時から、あなたも世界を変える一人になるかもしれない」=朝日新聞2021年8月4日掲載

 ◇はっとり・ゆか 集英社新書編集部編集長を経て学芸・学術書編集部編集長。