こども食堂、孤立無援を減らす可能性
個人が自宅を開放したり公民館やお寺を拠点にしたり、コンビニエンスストアなどの事業者が場所を提供したり。誰でも参加できる地域交流に力点を置いた共生・イベント型もあれば、貧困家庭を意識した日常的なケア型もある。湯浅さんは本の執筆中に多数の「こども食堂」を見て回る中で、「いま目の前の人をいま支援する」だけにとどまらない多様性と自発性に手応えを感じたという。
湯浅さんが理事長を務める全国こども食堂支援センター・むすびえの調査によると、「こども食堂」は「4年で16倍」のペースで増えて昨年末の時点で国内約5千カ所に達した。コロナ禍中の昨年中も200カ所近く増加したという。自治会・町内会長に男性が多い中で「こども食堂」の運営者には地域社会の中核を担う女性が目立つ。一方で、昨年は感染リスクや人手・資金不足から活動を縮小・休止する例も増えた。ただ、弁当や食材配布などの形で何とかして活動を維持しようと奮闘する運営者の声を聞き、活動が果たす役割が改めて見えてきたという。
一斉休校や在宅勤務が広がった昨年の感染拡大期には、こどもの居場所を確保する悩みを抱えた保護者が一気に増えた。「コロナ前の『平時』から多世代型交流の輪がある地域では、こうした『非常時』にも活動が生んだ縁を生かし、孤立無援になる人を減らすことができている」という。湯浅さんは「いま大変な『赤信号』の子だけ助けようとしても問題は解決しない。一歩手前の『黄信号』の子にも目が行き届くような、あらゆる層にとっての居場所づくりが大事」と話す。
湯浅さんは1990年代からホームレス支援の現場に入り、2008年末には「年越し派遣村」村長を務めるなど貧困・格差問題の最前線に身を置いてきた。民主党政権下で国の政策作りに関与した経験もある。「こども食堂」の活動が各地で活発化したのは10年代に入ってからで、湯浅さん自身は「各地の活動から学んできた側」だという。
今後の目標は25年に2万カ所、「全国のすべての小学校区にこども食堂がある状態」だ。「孤独や孤立が社会問題化しており、行政の支援制度や民間企業のサービスからこぼれ落ちてしまうこども以外の様々な人にも目が行き届く居場所になれば」と湯浅さんは願っている。(大内悟史)=朝日新聞2021年8月4日掲載