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大串章さんが第8句集「恒心」を出版 揺るがぬ句作の道

今こそ「滑稽」を大事に

 抒情(じょじょう)の俳人として知られる大串章さん(83)が第8句集「恒心」(角川書店)を出版した。前句集「海路」から6年ぶりの句集。2015年から20年までに詠んだ392句を収めた。句集名の意味は「揺るがぬ心」。中学生のころから歩んできた句作の道を振り返り、「続けてきたことで人生の実感を得ることができた」と語る。「恒心」を保ち続ける決意を新たにしている。

 俳誌「百鳥(ももとり)」の創刊主宰で、俳人協会の会長や朝日俳壇の選者も務める。

 「恒心」は、高名な俳人である飯田龍太から贈られた言葉だ。1969年、大串さんが当時所属していた大野林火主宰「濱(はま)」の俳誌に龍太は「章寸評」という一文を寄せ、「非凡にあこがれるより、常凡をおそれぬ恒心の確かさ、これがこの作者に対する私の印象のすべてである」と評した。

 「自分の俳句を平凡すぎると思っていたので、この言葉に救われ、大きな勇気をもらった」

老いを、人生を肯定

 句作で最も大切にしてきたのが「写生・抒情・滑稽」の三本柱だ。今回の句集でも、その精神が存分に発揮されている。

 春疾風(はやて)高炉の錆(さび)の逞(たくま)しき
 風鈴に亡き人の句を吊(つる)しけり
 花嫁と七五三の子見つめあふ
 麦踏みの夫婦近づきては離れ
 鶴の声真似(まね)て地酒を酌みにけり

 「写生・抒情」だけでなく「滑稽」を重視するのには理由がある。「今は鬱屈(うっくつ)した時代。だからこそ、思わず笑ってしまう、ほほえんでしまうというのが必要。滑稽があることで俳句の世界も広がるんです」

 今回の句集の特徴の一つが「老い」を主題にした句が、いくつも収録されていることだ。

 玉子酒八十路(やそじ)大事に生き抜かむ
 マフラーの色変へて老い拒みけり
 逝くときも空に舞ふ鷹見たきかな

 「年齢を重ねて毎日思い出すのが、故郷である佐賀県・嬉野で幼い日に見た風景」と言う。望郷の句も自然に生まれる。

 草笛を吹く目故郷を見つめをり
 手毬唄(てまりうた)故郷の山河ありありと

 「老いには誰も逆らえない。私は人生を肯(うべな)い、自分の現在を認めて、これからも歩んでいきたい」。そんな気持ちを込めた句もある。

 進むべき道は枯野(かれの)の奥にあり

 (西秀治)=朝日新聞2021年8月11日掲載