世の中には、多くの読者がいるにもかかわらず、人気作品と認識されていないマンガが存在する。学校の教科内容を解説した「学習マンガ」もそのひとつ。書店では、マンガ本コーナーではなく、絵本や図鑑などと共に児童書コーナーに並べられている。
様々な教科に対応している学習マンガだが、いま勢いがあるのは歴史科系だ。学研が2012年に刊行したのに続き、KADOKAWA(15年)、集英社(16年)や講談社(20年)といった大手出版社が次々と「日本の歴史」シリーズを刊行した。坪田信貴によるノンフィクション「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話」(13年)では、日本の歴史シリーズが受験勉強に有効だと紹介された。「ビリギャル」のヒットが、小学生向けと想定されていたシリーズの読者層を広げたといえる。
ここ数年の重要なトピックは「世界の歴史」シリーズだ。学研(16年)や小学館(18年)、KADOKAWA(21年)が相次いで刊行した。いずれも学習指導要領を意識し、教材としての有用性をアピールしているが、各社に特徴があって興味深い。
学習マンガ業界のニューカマーであるKADOKAWAは、マンガ出版社の強みを生かす。教材としてはもちろん、マンガとしての面白さも徹底して追求している。マンガ制作の過程では一般的に、「ネーム」というコマ割りやセリフをラフに描いた作品の設計図のようなものを作るが、同シリーズではこの工程を特に重視したそうだ。また、国単位で歴史を語るのではなく、同時代の横のつながりを重視する「グローバルヒストリー」という近年の歴史学のトレンドを意識的に採り入れた。これは来年度から高校で始まる新科目で、日本史と世界史を関連づけて学ぶ「歴史総合」に対応している。
小学館は、歴史教科書出版の大手・山川出版社が編集協力していることを強調し、手堅い定番を目指す。興味深いのは学研版。海外での翻訳出版を想定し、横書きの左開きになっているのだ。この挑戦が引き起こすだろう歴史認識をめぐる摩擦は、もしかしたら新しい形のグローバルな「世界史」を考えるきっかけのひとつになるかもしれない。=朝日新聞2021年2021年8月24日掲載