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映画「護られなかった者たちへ」出演の阿部寛さんインタビュー 人間の罪が生まれていく過程、繊細に

阿部寛さん

文章と映像の伝え方は違う

――『下町ロケット』や『ドラゴン桜』など、原作実写化作品へのご出演も多い阿部さんですが、原作ものの役を演じるにあたって心がけていることがあれば教えてください。

 原作と、それが映像になった時というのは結構違うものなんですよね。原作のように、一つひとつの心情が細かく文章で書かれていて、それを読んでいる人に伝えるということと、そういうものを映像で見せるというのは本当に難しいことなんです。演技だけではなく、どういう角度で撮るのか、照明のあて方もあるし、そこに近づけるのはなかなか難しいので、僕は原作から一回離れることにしているんです。

 原作に描かれている登場人物の気持ちに左右されて、それを再現しがちになりますが、現場に立った時に感じるものはやっぱり違いますから。今回は原作と脚本、両方を重視していましたが、基本的には脚本を重視するようにしています。

スタイリスト:土屋シドウ

――今作の原作は、東日本大震災の被災地・宮城県を舞台に、連続“餓死”殺人事件の謎を解いていくヒューマン・ミステリーですが、阿部さんはこの小説を読んでどんなことを感じましたか?

 まず思ったのは、人間一人ひとりには色々な考えがあって、それの何が正しくて何が間違っているかの境が難しいということでした。社会というのは色々な欠陥を抱えながら成り立っていると思うので、そういうものが歪となって、人間の罪が生まれていく過程が非常に繊細に描かれている作品だなと思いました。原作を読んだのは確か撮影に入る前だったと思いますが「これは難しいなぁ」と思いました。

――阿部さんが演じた笘篠は、震災で妻と子供を亡くしています。被災者の気持ちと、刑事として事件を追う責務、2つの思いを抱えた笘篠を演じるにあたって心がけたことはありますか。

 原作では笘篠が主軸になって書かれているのですが、映画の脚本では佐藤(健)くんが演じる利根が主役ですので、まずは佐藤くんと、被害者の部下で捜査に協力してもらう円山役の清原(果耶)さんを見守っていくような役作りをしていきたいと思いました。

 笘篠は震災で家族を失っていて、奥さんの遺体は見ているけど子供の遺体はまだ発見されていない。どういう最期を迎えたかわからない。その迷路からずっと抜け出せずに、色々な傷を背負ったまま刑事という仕事をしています。その苦悩を抱えながら、どうやって笘篠の人間性という部分を表していけるか、という不安はありました。

©2021映画「護られなかった者たちへ」製作委員会

社会から目を背けないで

――映画の公式サイトのコメントで「今までとは一味違う刑事像となる予感と期待がある」と仰っていましたが、それはどういったところから感じられたのでしょうか。

 瀬々(敬久)監督の作品はこれまでに何本か見ていますが、人間の何気ない表情に深い部分を描いた作品が多いんです。今回僕が演じた笘篠も、生きる希望というものを失いつつある状態で刑事をやっている人だから、きっと今までにない人物像が瀬々さんの元で作られていくんだろうという期待感は、撮影に入る前からありました。

 僕は今まで、自分が主役をやる作品の時は撮影に入る前に人物像をはっきりさせようと心がけることが多かったんです。でも今回はそういうものは抜きにして、ある種現場に身を任せて、監督やスタッフ、共演者を信じてやっていこうと心を決めていました。

――作中で笘篠の奥さんの遺体が見つかったシーンが心に残っています。津波で行方不明の母親を待つ少女・カンちゃんから「(みつかって)よかった?」と聞かれ「どうかな。よかったのかな」というセリフには、笘篠のどんな思いがあったのでしょうか? 

 このセリフとラストシーンは、苫篠の人間性が分かる数少ないシーンであり、彼を作り上げるうえですごく大事なセリフだったと思います。確かあのシーンは順撮りだったので、それまでの彼の感情を踏まえて僕もすごく気持ちが入りやすかったですし、集中してできたのを覚えています。

――本作は、震災のほかに生活保護制度もテーマになっています。これらの社会問題に対して「自分には何ができるのか」「何をすればいいのか」という問いかけも含まれているように思いましたが、阿部さんが本作を通じて感じたことを教えてください。

 今のコロナ禍もそうだし、震災もそうだけれど、我々は色々な経験をせざるを得ない時代。自分にできることは何かを答えるのは中々難しいですが、まずそこから目を背けないということが大事だと思いました。今世界で起こっている厳しい情勢も、見たり知ったりするとすごく苦しいんだけど、そこで辛い思いをしている人たちは、自分たちの存在を知ってほしいと思っている。だから僕たちができることは、そういう事実から目を背けずに、できたら声を上げることが大事なんじゃないかなと思います。

 ロケを宮城県石巻市で行ったのですが、震災から10年経った今も建物がほとんどない更地、もしくは新しい建物が徐々に建ち始めているという状況でした。現地の人の心にはずっと残っているけれど、他県の人々には徐々に遠い昔の出来事になってしまう。それが切なくて、忘れることも大事だけれど、忘れちゃいけないこともあるということを日々感じていました。この作品に携わったことで、僕も少しですが被災地の現状を知ることが出来たので、まずは「知ること」、そして「自分に何ができるか考えること」。まずはそこからかなと思います。

――本作のタイトルは『護られなかった者たちへ』ですが、阿部さんの「護りたいもの」はなんでしょうか。

 僕は演技をするという仕事を選んでいますので、作品を見てくださった人に、少しでもいい影響を与えたいと思っています。こういう社会的な作品でもいいし、コメディでもいい。作品を見て心が動いたり、何かアクションを起こしたり。もしくは、だれかが抱えている何かを少しでも救えられたらいいなと思います。それがこの仕事をしている一番の喜びです。今後も仕事をしていくうえで一番大事にして、護っていきたいことです。