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滝沢カレンさん「カレンの台所」インタビュー 料理レシピ本大賞の受賞作「物語を書きたかった」

滝沢カレンさん=サンクチュアリ出版提供

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※以下の書き起こしはインタビューを要約、補足したものです。

この本は自分の「思い出アルバム」

――「料理レシピ本大賞」受賞おめでとうございます。改めてどんなお気持ちですか?

 ありがとうございます。また本屋さんにいっぱい置いてくれたり、カバーの帯が変わったりとか、そういう変化がすごく嬉しかったり。私だけの賞じゃないからこそ、余計胸を張れる気がします。

――実は私もこれで作ってみました。「鶏のさっぱり煮」。ちょっと不安だったけど、美味しくできました。『カレンの台所』、分量の数字がほとんど出てこないんですよね。

 嬉しい! そうかも知れません。数字を出すのは何かすごく、みえをはっているような気がしてしまったので。いつも大さじ何杯でやってるかわからないのに、数字に落とし込むと、自分が好きだった料理とはまた違っちゃうんじゃないかと思ったので、それはやめました。自分の「思い出アルバム」みたいな感じで(作ったんですけど)、でもそれをInstagramに上げたときに、作ってみた人が現れたんですよね。びっくりでした。

「動かないものに妄想するのが好き」

――この本を書いたきっかけですが、2年前から、滝沢さんのInstagramにお料理ネタが登場するようになって、その投稿がすごい話題になりましたよね。

 そうでした。やっぱり料理好きですし、「カレン食堂」っていうテレビ番組の準備もあったので。「料理をしてない」と思われながら料理番組やるのって、料理に失礼だなと思ったりして。人に出すものをこれからお仕事で作っていくので、見た目をきれいにどうやったらできるかなってことも研究したくて、インスタもだんだん増えていったってわけです。

――そもそも料理は何歳ぐらいから?

 17歳ぐらいに料理をスタートしたというか、まあ最初は料理って言えない、実験に近いことをしてて。どんどん実験を繰り返すと楽しくなってきて、20歳超えてからはずっとやってます。いろんな匂いを漂わせながら、毎日料理を作ってました。焦げたり、臭かったり。

――インスタのレシピ投稿、独特の表現が話題になりました。生姜焼きを高校の学園祭に例えたり、ロールキャベツが男女の出会いの話になったり。どうやって思いつくんですか?

 私は一人っ子だったので、小さいときから遊ぶ人がいなかったんですよね。小学校も入る前って友達もいなかったし、虫とか木とか枝とかに感情をつけてよく遊んでたんですよ、おままごととか。小学校に入って友達ができても家に帰れば一人っ子だし、そんな時に話しかけてくれるのって虫とか動物しかいなくて。だからこの地球上にあるものに、何か「語り」があるんだろうなっていうのは、小さい頃からずっと思ってたので。

――だから、食器とか食材とか調理器具、はてまた台所とか、そういうものが意思や感情を持つものみたいに出てくるんですね。「絵本みたいだな」って思いながら読みました。

 嬉しいです! 絵本が大好きで育ってきたので。家ではゲームがダメだったので、本とかパズルとか迷路とかだんだん好きになっていって。「何でいつも感情を持たせるんですか」ってすごく聞かれちゃうんですけど、人って妄想するの大好きじゃないですか。人間じゃなくて、食材とか動かないものに妄想することが好きです。

「絵本みたいな物語が書きたい」

――本にするにあたって、インスタの投稿とはまた違った難しさはありましたか?

 編集の大川(美帆)さんが難しかったと思うんですけど、私は自分のこだわりとか、自分が「これはやりたくない」っていうことを全部先に言って、「それでもいいんだったら、私はここで本が出したい」って言ったんです。たとえば中に自分の写真がいっぱいあるなら私は出したくなかったし、無理やり私のインスタの文から「大さじ何杯」といった数字を出すならやりたくなかった。

 プロの料理人さんが何億人もいる中で、私がレシピ本を出すなら、一緒になったって意味がないと思ったんですね。自分の中で楽しさもないし、勝てもしない。なので、自分は「レシピっていうより、絵本みたいな物語が書きたい」ってことはお伝えしました。

――そしてすごく便利だったのが副菜のレシピ。主役だけだと食卓は成り立たないので、脇を固めるレシピがあって、しかもすごい簡単なんですよね。

 そう、副菜を作る時もついつい想像、妄想しちゃうこともあるけど、ぐっと我慢してまた違うページにしようって。物語になっていると、難しいと思われちゃったらかわいそうじゃないですか、副菜が。だから火を入れなくてもできることをメインに入れました。

――ちなみに、いつも「お醬油を全員に気づかれるぐらいの量」という感じで本当に作ってるんですか?

 私は作ってもらおうと思って書いてるわけじゃなくて、(自分が)作った感想を書いてるんです。だからもう1回、あの本を読んで自分が作ろうと思ったら、その時の味になる保証はないですね。生姜焼きを作ったとしてもハンバーグを作ったとしても、また違う想像になっちゃうんですよ。毎回、全然違う舞台の幕が上がってるので、1年たった私は実際に毎日毎日、違う舞台を想像していますしね。

「台所を好きになってもらいたくて」

――本が出て、どんな反響が嬉しかったですか?

 もう本当に、想像よりもはるかにいろんな人からメッセージを頂いて。一桁の数の年齢から10代、20代、30代、40代、50代、60代、70代、80代まで全部。7歳の子たちは、読み物として読んでくれてるんですって。絵本みたいに読書感想文にしてくれた人も。

 すごく感動だったのは、「母が病院でずっと読んでいて、最後の愛読書です」って言われたとき。もう、のどから声が出なくなったこの衝撃。私の本でよかったのかな、最後に私の本を、会ったこともない私の本を読んでくださるなんて。最後の愛読書だったり、読書感想文の本や、休み時間の絵本のような存在になってくれるっていうのが一番嬉しいです。自分はそういう本をいつか出したいとずっと思ってたので。

――2冊目は考えていないですか?

 まったく何もしてないですし、声もかかってないです。何かの運命だったなって思うんですよね。もう出さなくていいかなって思ったときもあったんです。いろんなお話を聞いても、何のために出すのか分からなくなった時もあって。けど、編集の大川さんに何かしたいって(思ったんです)。料理を本当にしない人で、めんつゆと塩しか台所にはないっていうぐらいの人なんです。

 私も17歳の時、どうやって揚げ物したらいいか分からなくて、バターをまるまる鍋に入れて揚げ物してたので。そんな私をちょっと思い出してしまって、「大川さんが台所を好きになってもらうために、私は本を出そう」って思ったんです。それがきっかけですね。今となってはもう、いろんな人に逆に助けられてしまって、助けたはずが助けられていました、私が。

【好書好日の記事から】

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土井善晴さん「くらしのための料理学」 料理は人間が健全に生きる土台、「一汁一菜」がつなぐ持続可能な循環

山本ゆりさん 「おしゃべりな人見知り」インタビュー 細部まで無駄を詰め込んだヘンで笑える料理の読みもの