「第8回料理レシピ本大賞 in Japan」にエントリーされたのは全150タイトル。その中から、全国の書店員からなる「書店選考委員」153人と、料理専門家である「特別選考委員」が受賞作を選考しました。「一般の人が作りやすいか」「おいしさや健康などのさまざまな面で日本の食文化に貢献しうるか」というポイントを重視して選ばれた11作品を紹介します。
摩訶不思議な感覚レシピ本
料理部門の大賞は、滝沢カレンさんの『カレンの台所』(サンクチュアリ出版)。「冷たい何も知らない鶏肉」「お醤油を全員に気付かれるくらいの量」など、カレンさんならではの言葉の数々でレシピが物語のように綴られています。分量も工程も明記されていないのに、その言葉のとおりに作ってみると感覚だけで作れてしまうという、レシピ本の概念をくつがえすような一冊です。
まさかの大号泣でオンライン中継の画面に登場したカレンさん。「大賞を取るとは思ってもいなかったので、この時が来るまではずっと『ドッキリかもしれない』と思って信じていなかったんです」と涙の理由を説明。
「料理も感情もなまものだと思うんです。料理というなまものに、誰もが一度は味わったことのある感情を詰め込んで物語のようにしたら、多くの人にもっと料理を楽しんでもらえるんじゃないかと思って、自分の子どものように大切に作りました」と、思いを語ってくれました。
その中から「茶色のトレンチコートの色」とカレンさんが表現した「チキン南蛮」。アンバサダーの天野さんはひと口ほおばると、開口一番に「おいしい!」と声を上げ、「チキンの方にしっかりと味がついていて、タルタルソースは意外とマイルドな感じ。カレンちゃんが書いた物語の部分が読みたくなった」と感想を述べました。
2年連続受賞! 簡単&おいしい“てぬきおやつ”
お菓子部門大賞は、YouTubeチャンネル登録者数約72万人のてぬキッチンさんの『材料2つから! オーブン不使用! もっと! 魔法のてぬきおやつ』(ワニブックス)。前作の『材料2つから作れる! 魔法のてぬきおやつ』(同)に続いて2年連続の大賞受賞です。前作同様「材料は最大で5つ」&「全レシピオーブン不使用」と超てぬきを徹底しつつ、美味しさを追求した78品のレシピを収録。
オンラインで授賞式に臨んだてぬキッチンさんは「昨年に引き続き、まさか大賞をいただけるとは夢のようです。私が日々楽しくレシピ開発ができているのは、『お菓子作りってハードルが高かったけど、こんなに簡単にできるのね』『おうち時間に親子で“てぬきおやつ”を作って楽しんでいます』といった、皆さんからのあたたかい声のおかげです」と、感謝の気持ちを述べました。
てぬキッチンさんのレシピ本から「そのまま牛乳パックキャラメルプリン」を試食した天野さん。「もちっとしていて、意外とビターで大人の味」と、ひと口食べて思わず笑顔になっていました。
節約の工夫と彼への愛情が詰まった一冊
料理部門の準大賞には、30万超フォロワーの人気料理インスタグラマー・RINATY(りなてぃ)さんの初著書『りなてぃの一週間3500円献立』(宝島社)が選ばれました。
彼との同棲をきっかけに節約レシピをインスタで発信するようになったRINATYさん。節約しつつも彼においしいごはんをいっぱい食べて欲しいとの思いから工夫を重ね、1食250円で一汁三菜ごはんが実現できる、お財布にもおなかにも嬉しいレシピを紹介しています。
RINATYさんは「同棲をきっかけに節約をしなければならなかったのと、日々の献立や食費の管理などにみんなも悩んでいるなと思って、インスタで発信し始めました。この本に携わってくれたチームもいい人ばかりで感謝していますし、日頃から応援してくれるフォロワーの皆さんにもすごく感謝しています」と話しながら、嬉しさと緊張のあまり途中で泣き出してしまう場面も。
お菓子で旅気分を味わう
お菓子部門の準大賞は、鈴木文さんの『世界のおやつ おうちで作れるレシピ100』(パイ インターナショナル)。鈴木さんは50カ国以上を旅しながら、世界のお菓子500種類以上を学んできたという“旅するパティシエ”。アジアや中東、アフリカ、アメリカ、ヨーロッパなど世界36カ国のおやつ100品を、日本の家庭で作れるレシピにして紹介しています。お菓子のイラストが可愛く、絵本のように楽しめるレシピ本です。
「今まで現地の人たちと一緒にお菓子作りをしてきた経験をもとに、必要に応じて日本の風土や気候に合わせた創作を加えました。完成形のお菓子をイラストで紹介することで、今までにない余韻や奥行きが感じられる一冊になっています。ぜひ読みながら、作りながら、食べながら、お菓子の形や姿の向こう側にある世界にまで、想像を膨らませて楽しんでもらえたら嬉しいです」(鈴木さん)
心も体も労れるスープレシピ
料理専門家や料理店オーナーの特別選考委員が選ぶ「プロの選んだレシピ賞」と料理部門入賞のダブル受賞となったのは、齋藤菜々子さんの『基本調味料で作る体にいいスープ』(主婦と生活社)。「塩」「みそ」「しょうゆ」といった章立てで、家庭にある基本調味料だけで作れるスープのレシピを紹介。著者が薬膳を学んできた経験を生かし、薬膳に基づいた食材の効能も掲載しています。
齋藤さんは「スープは多くの人にとって身近な存在であり、食べる人だけでなく、作る人の気持ちも満たす料理。『もっと野菜を食べてほしい』『栄養をとってほしい』という作り手の気持ちも、たったの1杯で満たしてくれます。自分自身や食べる人の体を労るために、この本がお役に立てたらとても嬉しいです」とコメントしました。
ダブル受賞を果たした山本ゆりさん
料理コラムニストの山本ゆりさんが、料理部門入賞とエッセイ賞をダブル受賞。その人気ぶりがうかがえます。
料理部門に入賞した『syunkonカフェごはん7』(宝島社)は、2011年から毎年出しているシリーズの10作目で、シリーズ最多の187レシピを掲載。山本さんは「毎回出すたびに改良を重ねてきたシリーズの10作目。もうこれ以上はないんじゃないかなっていうくらい、思い入れのある本なので、受賞できてありがたいです」とオンラインで喜びのコメントを述べました。
レシピをどうやって考えているのか、天野さんに聞かれた山本さんは「レシピは常に何かないかと考えています。お店で出るような料理を、家にあるもので簡単に作れないかなと考えることもありますね」。
エッセイ賞を受賞した『syunkon日記 おしゃべりな人見知り』(扶桑社)は、何気ない日常の話を綴った笑いあり涙ありのエッセイ集。ブログで反響のあったエピソードに加筆し、書き下ろしの新作やエッセイにちなんだレシピも掲載した、読み応えたっぷりの一冊です。山本さんは「どんな時でも日常に転がる面白さを見出して、大切にできたらいいなと思って書いた本。文章も未熟ですし、料理も勉強中なので、これからも頑張っていきたいです」と抱負を語りました。
野菜不足を手軽に解消
同じく料理部門入賞を果たした倉橋利江さんの『野菜はスープとみそ汁でとればいい』(新星出版社)は、スープやみそ汁で野菜がたっぷりとれるレシピ89点を紹介。
オンラインで授賞式に臨んだ倉橋さんは「野菜をたっぷりとりたいと頭では考えていても、何品も作るのは非現実的です。だったら発想を変えて、本のタイトルどおりに決めてしまえば、気持ちも楽になるし、ごはん作りのプレッシャーからも解放されるんじゃないかなと思いました」。
「具沢山ではあるものの、種類を絞ってどっさり使うレシピばかり。少しでも料理の負担が減って、毎日楽しく元気に過ごしてもらえたらという願いも込めました」。自身が編集者でもあることから、食欲がそそるような料理名や、あえて寄りで撮影した料理写真で美味しそうに見える工夫をしたといいます。
ひとりごとを詰め込んで
もう1点の料理部門入賞作、高山なおみさんの『自炊。何にしようか』(朝日新聞出版)は、神戸に引っ越して一人暮らしを始めた高山さんが「ひとり分のごはん」の自炊アイデアをまとめた一冊。
「この本は一人暮らしをしなければできなかった本。私自身、なかなか本が作れない状態だったのですが、編集者の方がずっと声をかけ続けてくれて、私が喋っていることをメモに取って送ってくれるなどを繰り返してできた“ひとりごと”みたいな本なんです。レシピ本って作り方の工程だけに収まらない、行間みたいな部分に実はコツや伝えたいことなどがたくさんあって、それらをどうやったら伝えられるかをいつも考えてきました。その新しい形がこの本になります」と、高山さんはレシピ本への静かな熱意をのぞかせました。
子どものための本格レシピ本
「子どもの本賞」に輝いた『料理はすごい!』(柴田書店)は、小学校低学年から使える、子どものための料理本。フレンチは秋元さくらさん(モルソー)、イタリアンは宮木康彦さん(モンド)、和食は笠原将弘さん(賛否両論)、中華は菰田欣也さん(4000チャイニーズレストラン)という、4人の名だたるシェフたちが先生となって子どもたちに料理を教えてくれます。
「出版社としても、初めて子どもを読者に想定した本。子どもたちに作ってみたい料理や、できることなどをアンケートして、その結果を反映しているので、きっと使いやすいと思います。もちろん大人も楽しめる内容なので、家族で料理を楽しんでほしいです」(柴田書店・長澤さん)
眠れない夜のお供に
コミック賞を獲得した午後さんの『眠れぬ夜はケーキを焼いて』(KADOKAWA)は、眠れない夜の過ごし方を提案するコミックエッセイ。パウンドケーキやスコーン、ガトーショコラなど、孤独な夜に寄り添う12のケーキレシピが紹介されています。
自画像でもあるオオカミのお面をつけて登場した午後さんは「コロナ禍で自宅で過ごす時間が増して、気分が塞ぎがちになっている人が多いと聞き、少しだけでも肩の力を抜くことができればいいなと思って描きました」と、思いを話してくれました。
日本の食文化を世界へ
授賞式の最後には、「料理レシピ本大賞 in Japan」実行委員会の加藤勤委員長が登壇。「コロナ禍で難しいかもしれませんが、来年は食べるイベントなど、皆さんに喜んでいただけるようなことをぜひ企画していきたい。また、日本にはこれだけさまざまなレシピがあることを海外に向けても発信していきたい」と語ると、アンバサダーの天野さんも「日本のレシピを世界に発信するのはすばらしい考え」と賛同。来年以降の展望に期待を膨らませ、セレモニーを締めくくりました。
現在、受賞作品を集めた「料理レシピ本大賞入賞フェア」を全国の書店で開催中です。ぜひこの機会に、新しい発想やさまざまな工夫に満ちたレシピ本との出会いを楽しんでみてください。
「第8回料理レシピ本大賞 in Japan」受賞作品
料理部門
【大賞】
・滝沢カレン『カレンの台所』(サンクチュアリ出版)
【準大賞】
・RINATY『りなてぃの一週間3500円献立』(宝島社)
【入賞】
・齋藤菜々子『基本調味料で作る体にいいスープ』(主婦と生活社)
※「プロの選んだレシピ賞」も同時受賞
・山本ゆり『syunkonカフェごはん7』(宝島社)
・倉橋利江『野菜はスープとみそ汁でとればいい』(新星出版社)
・高山なおみ『自炊。何にしようか』(朝日新聞出版)
お菓子部門
【大賞】
・てぬキッチン『材料2つから! オーブン不使用! もっと! 魔法のてぬきおやつ』(ワニブックス)
【準大賞】
・鈴木文『世界のおやつ おうちで作れるレシピ100』(パイ インターナショナル)
ジャンル賞
【こどもの本賞】
・柴田書店編『料理はすごい!』(柴田書店)
【エッセイ賞】
・山本ゆり『syunkon日記 おしゃべりな人見知り』(扶桑社)
【コミック賞】
・午後『眠れぬ夜はケーキを焼いて』(KADOKAWA)