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「著作権は文化を発展させるのか」書評 みなが利用できる入会権を提案

評者: 石飛徳樹 / 朝⽇新聞掲載:2021年09月25日
著作権は文化を発展させるのか 人権と文化コモンズ 著者:山田 奨治 出版社:人文書院 ジャンル:経営・ビジネス

ISBN: 9784409241394
発売⽇: 2021/07/29
サイズ: 20cm/302p

「著作権は文化を発展させるのか」 [著]山田奨治

 15年ほど前、私は映画評論の本を刊行したことがある。作品写真を使いたかったが、使用料が多額になるので、文字ばかりの本になった。当然売れなかった。
 私怨(しえん)ではないと思いたいが、「著作権は文化を発展させるのか」という題に引かれた。著者の山田さんはこう書き出す。「日本の著作権法の目的は、『文化の発展に寄与すること』にある。ところで、『文化の発展』とは何だろうか?」
 著作権法とは、文化の作り手を、権利者として守るために存在する。そこに異を唱える人はほぼいまい。問題は、作り手の権利が強すぎて、受け手の権利がないがしろになっていないかという点である。そうなると、角を矯めて牛を殺すことになりかねない。
 法律上の権利は基本的にお金に換算される。お金の魔力とは恐ろしいもので、いつしかお金が価値のすべてになっている。数字に化けた「文化」はもはや「本来的な意味からはほど遠い『消費財』でしかない」と山田さんは嘆く。特に2017年、文化芸術基本法が施行された時に、国の文化政策が「経済戦略」に本格的に組み込まれたという。
 ただし、山田さんは嘆いているばかりではない。著作権が作り手の「所有権」のように考えられ、囲い込まれている現状を打破しよう。そして、多くの人々が利用できるコモンズ、つまり「入会(いりあい)権」的な概念を導入しよう。そう提案する。
 昨年、スタジオジブリが自社作品の画像をサイトに上げ「常識の範囲でご自由にお使い下さい」とした。ジブリは著作権に厳格な印象があり、その決断には大いに驚かされた。山田さんはこう分析する。「作品がユーザーに使われ、記憶され、拡散されることが、最終的には著作者の利益になるという、現実的な判断がそこにはある」と。
 胸がすくパラダイム転換だ。15年前に映画各社がこうだったら、私の本ももう少し……。いや、やはり私怨が少々交じっていたか。
    ◇
やまだ・しょうじ 1963年生まれ。国際日本文化研究センター教授、総合研究大学院大教授(情報学、文化交流史)。