1. HOME
  2. 書評
  3. 「ミャンマー政変」書評 国軍の自己陶酔 民主派の差別

「ミャンマー政変」書評 国軍の自己陶酔 民主派の差別

評者: 阿古智子 / 朝⽇新聞掲載:2021年10月09日
ミャンマー政変 クーデターの深層を探る (ちくま新書) 著者:北川 成史 出版社:筑摩書房 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784480074126
発売⽇: 2021/07/08
サイズ: 18cm/254p

「ミャンマー政変」 [著]北川成史

 専門家でも「全く寝耳に水だった」という国軍のクーデター。新聞社特派員による本書は、その背景にある歴史的・制度的要因や権力構造を丁寧にひもとく。
 2015年11月の総選挙で大勝し新政権を発足させたのは「国民民主連盟」(NLD)だった。しかし、軍政下で制定された現行憲法は国軍に特権的な地位を与え、文民統制が利かない。25%を占める軍人議員の協力なしには憲法改正も発議できなかった。
 だがNLDは戦略的に動く。外国籍の家族がいるNLD党首のスーチーは憲法上大統領になれないため、国家顧問職を新設した。国軍の中央集権支配のかなめの総務局は、文民がトップを務める連邦政府省に移管。採掘産業の契約の開示を迫り、国軍の利権構造にもメスを入れた。
 NLDは国軍との対決姿勢を明確にして支持を広げ、国軍は焦りを募らせた。リーダー同士対話ができず互いに不信感もあった。
 しかし、国軍が悪で民主派が善という単純な構図で描けない部分もある。ロヒンギャ問題では、ジェノサイド(民族大量虐殺)と断定した国際社会の批判にスーチーも反論した。ロヒンギャは「肌が黒い」異教徒と差別され、国籍法改正で国籍も取れない。
 ビルマ人居住地域を直接支配し、少数民族居住地域に自治を認めた英国植民地時代の「分割統治」は独立後、少数民族間に格差を生じさせ、不満を持つ民族は武装勢力を形成して割拠した。だから、国軍には国を分裂させずに守っているという自負がある。だが、それが「自己陶酔」(米大使)の域にまで達せば「権力を失う恐怖が堕落させる」(スーチー)のだ。
 第二次世界大戦中の英国軍や日本軍の作戦もミャンマーに傷痕を残し、現在の民族間の対立に関わっている。国際的な対立構図を持ち込まず国軍に圧力をかけるべきという、著者の考えに首肯した。今こそ日本の役割が問われている。
    ◇
きたがわ・しげふみ 1970年生まれ。2017年から3年間、東京新聞・中日新聞バンコク支局の特派員および支局長。