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古舘伊知郎さん「MC論」インタビュー 職業でなく人間そのもの

古舘伊知郎さん

 マスター・オブ・セレモニー、略してMC。いつしか司会者から呼び名が変わった仕事について筆を執った。テレビの世界で喋(しゃべ)り続け40年を超える。「僕自身、年をとったし、テレビは若年層にとって毎日見るものではなくなった。大転換期です。MCを切り口にしてテレビの歴史をまとめたくなった」

 プロレスの実況から歌番組やバラエティーのMC、報道番組まで手がけた自らの軌跡を振り返っているのではない。タモリや明石家さんま、ダウンタウン、爆笑問題ら人気MCたち20組超が主役だ。生で見てきたからこそのエピソードをふんだんに盛り込み、その特徴を分析した。

 比喩を巧みに使う古舘節は活字でも健在だ。司会者の概念を壊した大橋巨泉は「テレビ界のレオナルド・ダ・ヴィンチ」。相づちばかりになる黒柳徹子の徹底した下準備は「MC界の鹿島建設」……。「MCの仕事はうなぎみたいにつかみどころがないし、どんなスタイルがあっても良いから面白い。MCは職業ではなく、人間そのものなのかも」

 テレビは時代を映す鏡と言われてきたが、MCも「小さな鏡」だという。草創期に司会者が求められた技術は、台本通りの進行。それが80年代の漫才ブームなどで1人から2人体制となり、次第に芸人が並ぶ「ひな壇」が生まれた。仕切り役がMCと呼ばれ始め、場の流れに合わせてゲストを引き立てる技術が求められた。また、MCとは別に局アナらが進行役になる分業も進んだ。「責任を分散化する時代の象徴です」

 そんな今のテレビは「自主規制と忖度(そんたく)ばかり」と語り、「チンピラになれ」と挑発する。「クレームが気になるならAIに任せればいい。番組を作るのは人間ですからおのずと偏る。だから面白い。今のテレビに人間くささはありますか?」(文・宮田裕介 写真は所属事務所提供)=朝日新聞2021年10月30日掲載