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谷川渥「孤独な窃視(せっし)者の夢想」 妖しき近代文学、美学者が凝視

 異貌(いぼう)の書、と著者自ら宣告している。『孤独な窃視(せっし)者の夢想』(谷川渥著)は、窃視、すなわち覗(のぞ)き見という特異な観点から日本の近代文学を様々に読み解く。

 表題の一編は江戸川乱歩と萩原朔太郎を論じる。2人は交遊があり、強い「孤独意識」で共通していた。「隙見」に始まり、レンズを介在させ、「ついに島全体をパノラマに化す」小説に進んだのが乱歩なら、朔太郎は「ばくてりやの世界」のように「現実と想像がないまぜになった覗きの詩」を書き、写真機好きな「窃視の人」だったと著者はいう。ルソー『孤独な散歩者の夢想』を導入に、乱歩と朔太郎の夢想を「近代文学のある種の特権的形象」たる猫に収斂(しゅうれん)させる結語まで、この美学者ならではの着眼と巧みな運びである。

 収録の諸論考は、漱石や鷗外、谷崎らを参照しながら、より広く「見ること」の諸相に及ぶ。「変態」「病い」「犯罪」で解く大正デカダンス、乱歩と夢野久作の「狂気」への眼差(まなざ)しの違いなど、副題にいう「日本近代文学のぞきからくり」を堪能した。(福田宏樹)=朝日新聞2021年11月6日掲載