ISBN: 9784813022862
発売⽇: 2021/11/05
サイズ: 19cm/319p
「ヤクザ・チルドレン」 [著]石井光太
暴力団の構成員(ヤクザ)にも家族がおり、子どもがいる。考えてみれば当たり前のことだが、その当たり前について私たちが知る機会は、ごく少ない。
著者によれば、日本は「バブル崩壊後の約三十年で構成員を三分の一にまで減らすのに成功した」という。法律や条例の制定による暴力組織の弱体化自体は、決して悪いことではない。しかし、これには続きがある。
「構成員を締め付ければ、その周りにいる家族をも苦しめる。実は、一つひとつの家庭に光を当てると、その皺寄(しわよ)せがもっとも弱い立場の子供にいっているのがわかる」。ヤクザを厳しく取り締まることと、その子どもを手厚く保護することは本来セットであるべきだが、そうはなっていないのだ。
両親の離婚や逮捕によって家族がバラバラなのは、もはや当たり前。逮捕を恐れて、福祉にも繫(つな)がれない。家庭に居場所がないからと、地域の不良や暴走族と繫がってみたところで、今度は仲間同士の喧嘩(けんか)が待っている。どこまでも過酷だ。
幹部クラスの子だと、金銭的に恵まれていたり、大きくなるまでヤクザの子だと知らずに暮らしていたりもするが、それはかなりのレアケース。覚醒剤を売りさばく下っ端ヤクザの子になると、クスリでおかしくなっている親を日常的に見ることになるし、中には親からクスリをやるよう仕向けられる子までいる。「子どもは慈しむもの」「我が子だけは特別」といった考えがまるで通用しない世界で、それでもどうにか生きていかねばならないのが、ヤクザ・チルドレンなのだ。
大学で「実はヤクザの子なんです」と言われたことが何度かある。彼らの大変さを、当時の私はわかっていなかった。出自を告白することに、どれだけ勇気が必要だったかも。黙っていればいないことにされ、声を上げれば差別の憂き目に遭う。だからこそ、この聞き書きは貴重だ。本書が彼らの環境を変える一助になることを、願ってやまない。
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いしい・こうた 1977年生まれ。作家。事件、社会問題をテーマに執筆活動を行う。『こどもホスピスの奇跡』など。