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「毛沢東の強国化戦略 1949-1976」書評 「闘争状態の継続」は今も鍵概念

評者: 阿古智子 / 朝⽇新聞掲載:2022年01月15日
毛沢東の強国化戦略1949−1976 (慶應義塾大学東アジア研究所現代中国研究選書) 著者:山口 信治 出版社:慶應義塾大学出版会 ジャンル:政治・行政

ISBN: 9784766427769
発売⽇: 2021/10/20
サイズ: 22cm/439,30p

「毛沢東の強国化戦略 1949-1976」 [著]山口信治

 台湾有事が現実味を帯びてきたとの議論も聞こえる昨今、中国という国の特質を、その目指すものを見極める必要性が高まっている。中国共産党は昨年十一月に「歴史決議」を採択したが、習近平は自らを毛沢東に並ぶ地位に位置付けようとしているとも言われる。
 軍事、イデオロギー領域の安全保障が毛沢東時代の国家建設を規定すると捉える本書は、それが現代中国に続く国家のあり方の基礎となっていると指摘する。
 毛沢東は米国による封じ込めとソ連の軍事的圧力に対抗し、イデオロギーの浸透で共産党政権を変質させる西側諸国の「和平演変」の企てを疑い、排除しようとした。さらに、台湾問題の解決による国家統合を安全保障の重点に据えた。
 安全保障の課題に対処するため、ソ連と同盟関係を結び、米国と対話による関係改善を目指した時期もあった。しかし、どちらも台湾問題の現状を固定化してしまい、敵国は関係緩和を利用してイデオロギーの浸透を図ろうとする。自国の強化による敵国への対抗しか道はないとの考えから、大躍進政策のような明らかな失政も限定的な調整に留(とど)めたと筆者は見る。
 学習塾を一斉に閉鎖し、成長する民間企業に共同富裕を掲げて圧力を加えるなど、最近も経済的合理性を無視するような政策が打ち出されているが、毛沢東時代を振り返ると、本書の提示する「闘争状態の継続」という概念に中国理解の鍵があると言えるだろうか。
 文化大革命初期の一九六九年、中ソ間で軍事衝突があり、核戦争にエスカレートしかねない重大な危機に発展した。今や超大国となった中国が仕掛ける敵対関係を想像すると恐ろしい。
 だが、安全保障に規定される国家建設には膨大なコストがかかる。歴代王朝の盛衰を見れば、この強権体制が永遠に続くとも思えない。本書を読み、周辺から冷静に中国の強国化戦略を捉え、安易に煽(あお)りに乗らないことが肝要だと感じた。
    ◇
やまぐち・しんじ 1979年生まれ。防衛研究所中国研究室主任研究官。『現代中国の政治制度』(共著)など。