気鋭の新人、島口大樹さんの小説は一貫して映像が重要な役割を果たしている。デビュー作『鳥がぼくらは祈り、』(講談社)が野間文芸新人賞の候補になり、2作目の『オン・ザ・プラネット』(同)は1月の芥川賞候補となった。カメラを通して見える世界を描写することで、現実をすくい取ろうとする。
新刊の『オン・ザ・プラネット』は、大学生ら4人が映画を撮るために横浜から鳥取砂丘をめざすロードノベル。気のおけない4人の会話は、互いの過去に触れながら、徐々に思弁的になり、記憶や時間をめぐる考察へと流れていく。
現在、社会人1年目。今作を執筆していたのは大学卒業を控えた時期だった。「卒業制作のつもりでした。自分の学生生活のようなことを書いてみたかった」。喫茶店や居酒屋で、友人と小説や映画の話をずっと続けるような日々を過ごしていたという。
『鳥がぼくらは祈り、』では登場人物の1人が日常的にカメラを回し、『オン・ザ・プラネット』でも映画が撮影されている。「現代ではスマホで映像や写真を撮るのが当たり前だけれど、それはよく考えれば奇妙なこと。500年前の人は、自分が動いている姿を見ることは基本的になかったはず」
物語は実験的な試みで幕を閉じる。「小説で試したいこと、やりたいことはいろいろあるけれど、僕に主導権はない。書いていくうちに、作品に連れていかれる瞬間がある」。次に何を書くのか。「自分でも興味があります」(興野優平)=朝日新聞2022年2月2日掲載