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「政治家失言クロニクル」書評 戦後日本史 軽妙に辿るガイド

評者: 温又柔 / 朝⽇新聞掲載:2022年02月19日
政治家失言クロニクル (ele-king books) 著者: 出版社:Pヴァイン ジャンル:政治・行政

ISBN: 9784910511054
発売⽇: 2021/11/24
サイズ: 188×127mm/208ページ

「政治家失言クロニクル」 [著]TVOD(コメカ+パンス)

 今や、「フェイスブックやツイッターが媒介した膨大な量のコミュニケーションは、陰謀論やフェイクニュースの繁殖と蔓延(まんえん)や、フィルターバブル・エコーチェンバー内での言説の極端な過激化をもたらすことになってしまった」。「敵を指定して、支持を取り付けるというやり方が定着」し、現職の政治家すら「『ネット民』的な感性のツイートを乱発する」のを恥じない事態が公然とまかり通る。
 多くの人にとってネット空間に「常在」するのが日常化し、誰もが容易に「発信者」になれるので「今この瞬間にどれだけアテンションを集められるか、どれだけ大きいバズを起こせるか、ってところに関心が集中」するのも、ある程度は仕方のないことかもしれない。逆に言えば不特定多数の人に「承認」されたいといった欲望を一切持たずに「目立とうとしない」ままでいるのがひどく難しい時代を生きざるを得ない私たちにとって、地に足をつけて「自分や自分が生まれた場所にまつわる歴史を踏まえてものを考え」るには、どんな方法が有効なのか?
 こうした問題意識を念頭に置き、「サブカルチャーと社会・政治を同時に語る」活動を展開するコメカ氏とパンス氏の二人は「失言」「暴言」「迷言」を軸に対談形式で戦後日本史を辿(たど)る。政治家たちによるそれぞれの「問題発言」の顕(あらわ)れ方を分析しつつ、「現状のバックグラウンド」としての「歴史」を考察する内容は硬派だが、文体は軽妙。
 数々の「失言」や「暴言」をめぐって粘り強く「議論や検証を繰り返して、それを掘り続ける」二者の態度は、歴史を「単純化」する「コピーアンドペースト的な話法」に抗(あらが)う気概に満ちている。ただし、決して堅苦しい本ではない。むしろ、「過去や歴史にアクセスして参照項を増やす」ことをもっと楽しみたくなる、とてもユニークかつ、非常に頼もしい「ガイドブック」だ。
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古本屋店主コメカとライター・DJのパンスによるテキストユニット。著書に『ポスト・サブカル焼け跡派』。