トンガや小笠原諸島の海底火山が噴火した。気象衛星が捉えた何百キロにも広がる噴煙は、我々に地球の力を見せつけた。
爆発的な火山噴火は炭酸飲料に例えられる。ぬるい飲料を振ってふたを開ければ激しく噴き出す。溶けていた炭酸ガスが泡立つからだ。泡立つマグマが噴き出して固まれば軽石になる。
福徳岡ノ場の噴火で軽石が漂流して被害を及ぼしたが、火山にとって大量の軽石の噴出はごく普通のことなのだ。
『軽石』は、火山を知る試料として、その特徴や調べ方、噴火の様子を描く。海岸に出かけて漂着した軽石を見つけ、採取して分析。著者と一緒に解き明かす気分を味わえる。
全国からの漂着報告で明らかになった日本近海の海流、大人が乗ってもびくともしない大きな軽石、深海で見つけた浮かばない材木状の軽石。「自然の中からクイズの問題を探って作り、これを解いて楽しむ」。探究の魅力に引き込まれる。
ドラマの原動力
構えずとも、噴火や地震、地殻変動でできた風景は身の回りにも息づく。『日本列島の「でこぼこ」風景を読む』(鈴木毅彦著、ベレ出版・1870円)は、地球の活動を地形から読み取るガイドになる。
そのドラマの原動力は、地球の深部にある。
日本もトンガも、地球を覆うプレート(岩板)が沈み込む場所で、火山ができやすい。沈み込む時に海水も一緒に地下深くに取り込まれる。高温高圧の地下で、海水が混ざると岩石は溶けやすくなりマグマができる。
『火山大国日本 この国は生き残れるか』は、プレートの運動による日本列島の成り立ちや噴火の仕組み、地下深くで起きている現象を端的に説明。簡素なイラストが理解を助ける。地球のダイナミックな営みは和食や海の幸にも関係する。地形が出汁(だし)に適した水を作り、プレート運動で作られた瀬戸内海は変化に富み多様な生き物を育む。
著者が力説するのは、起きれば壊滅的な被害を及ぼす巨大噴火との対峙(たいじ)だ。それを想定しなくてもよいという原発裁判での司法判断に疑問を呈し、国土強靱(きょうじん)化政策は世界一の変動帯に位置する国であることをきちんと認識できていないと指摘する。この国が防災の対象とするのは、前例の延長で対処可能なことだけなのかと感じさせる。
そんな火山に向き合う科学や対策の現状はどうなのか。
『最新科学が映し出す火山』の著者は、箱根山のふもとの研究所に勤務する。有数の保養地、温泉や噴気は観光資源でもあり、防災に神経を使う。
火山現象は「不確実で正確な予想はできないという不都合な真実」を行政も市民も受け入れねばならない。気象庁が運用している「噴火警戒レベル」も課題が山積みだ。噴火予知は困難で、「現時点で不可能」と言明。週刊誌などで噴火予知をして危機をあおる「自称専門家」はニセモノだと手厳しい。
時間尺度の違い
江戸時代よりも現代の方が噴火に対して脆弱(ぜいじゃく)との指摘にもうなずく。物流は効率化で在庫を減らしており、止まれば即座に物資不足。管理する電子機器は火山灰に弱い。想定や訓練通りに対処できるとは限らない。
『あしたの火山学』(神沼克伊〈かつただ〉著、青土社・2200円)は、地球と人間のタイムスケールの違いを冷静に把握する必要性を強調する。例えば地球にとって3千年は一瞬だが、人間にとってはとてつもなく長い時間だ。地球にとっての「もうすぐ」が、人間のそれと同じだと誤解されるような言説を戒める。踊らされず、かつ直面する危機を受け止めて備えよう。
人間には解明しきれない地球。脅威でもあるが、楽しく謎を探究する対象でもある。=朝日新聞2022年3月5日掲載