とんがっていた者同士の出会い
――お二人にはどんなつながりがあって今回の共同制作に至ったのでしょうか。
松坂桃李(以下、松坂):(長田)真作と出会ったのは7年くらい前で、その時から「何か一緒にやろうよ」という漠然とした気持ちはあったんです。
長田真作(以下、長田):その当時、僕は俳優の満島真之介と一緒に住んでいて、彼が桃李くんと共演していたので引き合わせてくれたんですけど、その時の出会いは今でも鮮明に覚えています。この寒々しい東京で「あ、僕と同じようなタイプがいるんだ」と感じて、うれしかったんですよね。
――松坂さんは絵本を作ってみたい気持ちが以前からあったのですか?
松坂:最初は全く考えていなかったんですけど、真作と出会った時「同年代でこんなに絵本業界で攻めている人がいるんだ!」という印象が強くて(笑)。
長田:あ、そうだったんだ。僕ってそういう印象ですか(笑)。
松坂:同世代の人ってなんか興味が湧くんですよ。過ごしてきた年月が変わらないので、その中でこういう仕事をチョイスして、どう過ごしてきたのかっていう、一人の人物に対してすごく興味があるんです。俳優の仕事も、きっと絵本作家も似ていると思うんですが、実は結構孤独なんですよね。その孤独の中で、同世代の真作が絵本とどう向き合っているのかという興味が尽きなくて。
真作は当時、「俺は絵本業界に対してこう思う!」みたいな、結構とんがったことを言っていたんですよ。僕もその頃は現場に対して「こう思う」みたいなところがあって、飲みながら熱いトークをしていたんです。そういう機会を重ねていくうちに、彼の仕事に対する向き合い方に刺激や衝撃を受けて、彼の絵本に対する表現力にものすごく興味が出たんですよね。僕は元々絵を描くのが好きで。だから「絵本でこれだけの表現や奥行きを出す人がいる」というのを初めて知った時は衝撃だったんです。
長田:僕もここ3、4年の彼が出演する作品のチョイスも含め、「あなたも十分とんがっているよ!」と思っていました。そんな彼の動向がすごく面白いなと(笑)。そんな思いがしだいに募っていき、「そろそろ一緒にやりたいね」という気持ちが合致して、今回の共作になりました。
桃李くんは「トンネル」のよう
——本作はお二人の対話から始まって、それを長田さんが一つの作品として描いたそうですが、松坂さんは具体的にどんな提案をされたのでしょうか。
松坂:僕から何か提案したわけではなく、お互いの近況報告や普段思っていることを雑談している中で、僕の話す言葉や思いみたいなものを真作がこの『まろやかな炎』という作品として具現化してくれた感じですね。
長田:少し話は逸れるんですけど、今はとにかく情報がたくさんあるでしょう。分からないものが少なくなっているというか、すぐにだれかが答えてくれたり、その情報がどこかにあれば簡単にアクセスできたりするので「トンネルの向こうには何があるんだろう?」っていうような、分からないものに対する楽しみが昔より減っているじゃないですか。
僕は一人でその「トンネル」のようなもの探って行くことが好きなんですが、桃李くんはどこかその「トンネル」のような存在なんです。進んでも進んでも暗くてよく分からない。出口があるのかさえ……。それを嫌味なく自然に醸し出しているんですよねぇ。そんな桃李くんを僕なりに受け止めて、作品に昇華させました。あとは絵本としての広がりがでるように、「松坂桃李のどこかを切り取る」のではなく、ぼんやりとしたイメージを大切にして、イマジネーション豊かなものにしたつもりです。
「炎」は心の写し鏡
——本作は「炎」が突然いなくなり、いまひとつ物足りない日々が続いていたエリマキトカゲの「マロ」のところに、自由奔放に動き回る「炎」が戻ってくることから始まります。「炎」と聞くと「怖い」という印象があるのですが、マロは炎がどんなに激しく燃えて形を変えても怖がらず、時には一緒に遊び、時には包まれていますね。
長田:僕としては、まさにそういう「炎って怖い」というような固定化されたイメージを、この作品で壊していければなぁと。例えば「炎が迫っています」って言われたら、現実世界ではちょっと怖いかもしれないけど、僕の世界の中では炎は形を変え、とても豊かな存在でいられる。そういうところに創作の自由を感じるので、可能性にトライして広げていけばいくほど、絵本っていいなと描いていて思うんですよね。
松坂:炎のことは「怖い」とも言えるけど、自分自身の心のあり方によってはまどろむこともできるし、すごく温かい瞬間を感じることもありますよね。「マロ」と「炎」は心の写し鏡みたいに捉えることもできるなと思います。
この絵本は、1回読んだ印象と2回読んだ印象、そして1日置いて次の日に読んだ印象が全く変わるんですよね。僕らがやっている映像作品は、一度カメラの前で「この気持ち」でやったら、もう「この気持ち」として切り取られるんですけど、絵本の場合は読み手によってどうとでも印象が変わる。形があるのにないような、本当に不思議で面白いと思います。
——マロと炎は共に行動するうちに、互いに影響し合い、変わっていきます。松坂さんと長田さんの関係ようにも読めますね。
松坂:マロと炎って、表裏一体に近いのかもしれない。だからこれは僕自身でもあり真作でもあるような、僕たち二人の気持ちが共存するような感じにもとれるんですよね。
僕たちが日常的に思っていることや仕事の向き合い方、世の中に対しての感じ方みたいなものと、今の二人が経てきた年月の状態が形になった作品だと思うので、もし何か日常で引っかかるところがあるのであれば、この本を読み終わった後にその気持ちがちょっとでも消化できたらいいなと思います。
長田:僕らが考えて感じた個人的な事って、ただ個人的なことで収まるのではなく、他愛もないことが積もり積もるとそれが形を変えて作品になり、パッと華やいで面白くなるんだなと、今回の共作を経て思いました。
例えば主人公のマロは、最初はただ炎のことを待っているのですが、「待つ」って特にアクションがないけど、僕は「待つ」ということに結構こだわるというか、「気にしているんだな」って描きながら気がついたりしました。そういう小さなことでさえ、この作品の大事なところになっているんじゃないのかなぁ。もしかしたら同じ気持ちを持っている人がいるかもしれないし、むしろ「こういう感じ方ってあるんだ」と新鮮に思ってもらえるかもしれない。本作を読んで、みなさんがどんな感じ方をするのかすごく楽しみです。