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週末北欧部chikaさん「北欧こじらせ日記」インタビュー フィンランド好きが移住を決意するまで

「好き」をキャリア形成に

――『北欧こじらせ日記』は、chikaさんのフィンランドが大好きという気持ちと、「好き」をキャリア形成にどうつなげたのかを具体的に知ることができるコミックエッセイです。挫折して「もうあきらめるしかない」と思っても、考え方しだいですべての経験はプラスにできると実感できる内容でした。

 フィンランドが大好きで、私のTwitterアカウント「週末北欧部」では、日本にいながら日常に北欧を取り入れている様子を漫画にして載せていました。それを見た世界文化社の編集さんから「読者のお守りになるような本をchikaさんと一緒に作りたい。これまでの人生のストーリーを基にしたコミックエッセイを描いてもらえませんか」と連絡があったときは、自分の経験が誰かの役に立つと考えていなかったので驚きました。『北欧こじらせ日記』は、北欧が好きな方に向けてはもちろん、自分自身が悩んだ時のことも思い返しながら、「なぜこの行動をしたのか」や「今の考え方につながる出会い」をくわしく描きました。

©週末北欧部chika/世界文化社

――予約が殺到して初版はすぐに完売、有名なテレビ番組のランキング1位に選ばれるほどの反響でした。作者としてどう感じられましたか?

 びっくりしました。同時に、これだけ多くの方が楽しみに発売を待ってくださっていたことがとても嬉しかったです。絵や日記を書くのは子どものころから好きだったのですが、漫画制作を始めたのは3年くらい前でした。ブログに書いた日記を漫画にしたいと思い、iPadで描いてみたら楽しくて続けるようになったのですが、当時は自分の漫画が本になるなんて想像もできませんでした。

――特に気に入っているエピソードは?

 真夜中に思い立って(北欧の有名なお菓子の)シナモンロールを焼く冒頭のエピソードと、中盤の「どんぐりの背くらべよりも」です。シナモンロールの話は、編集さんから「chikaさんを象徴している出来事ですね」と言われてたしかにそうだなと思いました。「日本でフィンランドを感じられるように工夫する」「思い立ったら即行動」はどちらも私の特徴で、急にシナモンロールを焼きたくなり、夜中に24時間スーパーまで材料を買いに行くのは、まさに私らしさが表れたエピソードなのかなと思いました。

©週末北欧部chika/世界文化社

――もうひとつのお気に入りのエピソード「どんぐりの背くらべよりも」はchikaさんがフィンランドで寿司職人を目指すことをオーナーに打ち明けたエピソードですね。オーナーは「人にどう思われても自分がやりたいことやらなきゃ!」と夢を語るchikaさんの背中を押してくれます。

 当時、私は企業で契約社員として営業の仕事をしていたのですが、雇用期間が3年半と上限がありました。なので、今後のキャリアを考えるために興味のあることをすべてやろうとリストを作ったんです。その中のひとつが「北欧カフェ」で、会社は辞めずに週末だけカフェで働いてみることにしました。

 そのときのカフェのオーナーの言葉が自分の人生を変えるなんて当時は想像もしませんでした。私の考えをすべて肯定してくれたオーナーの言葉は大きなターニングポイントになったと思います。この後、会社の有給休暇を使ってフィンランドに行き、今後のキャリアの選択肢を広げるような経験をすることができました。

ほどよい距離感に魅せられて

――chikaさんは2021年に『マイフィンランドルーティン100』(ワニブックス)も出されていますが、フィンランドが好きなのはどうしてですか?

 学生時代からバックパックを背負ってアジアやヨーロッパなど色々な国を巡り、お気に入りの国との出会いもありました。けれどフィンランドは、その中で唯一「住んでみたい」と強く感じた国で、何度行っても、フィンランドの街や人が持つ素朴さややさしさ、ほどよい距離感に魅せられるんです。

 6年前には、北欧好きを集めて北欧のお菓子や飲み物を持ち寄り、大阪でピクニックをしたのをきっかけに北欧好きな仲間とのコミュニティーもできました。メンバーは13人で、対面で会いにくい今はオンラインでよく話しています。ほかにも部屋のベランダを北欧の森のようにしたり、ムーミンの木彫り人形を作ったり……写真やイラスト入りで本作に載せているので、それもぜひ読者さんに楽しんでいただけると嬉しいです。今のお気に入りの北欧グッズは15種類のムーミンマグで、気分によって使い分けしながら北欧のコーヒーを飲み、フィンランド気分を味わっています。

――そしていよいよ、フィンランドで働く夢が実現すると聞きました。

 はい。執筆中に会社員をしながらフィンランド就職に向けて寿司職人の修業をしていたのですが、今(2022年3月時点)は12年務めた会社を退職し、週に5日、お寿司屋さんで修業をしています。

――フィンランドで働きたいと思ったときに、寿司職人を目指した理由は何ですか?

 フィンランドでは、自分がすでに持っているものを価値にして、何歳になっても続けられる仕事がしたいなと考えました。海外に行けば日本人であることもひとつの価値になるので、日本の代表的な料理であるお寿司を作る職人になろうと思ったんです。

 実際に店に入り修行してみると、お客さんとのコミュニケーションの大切さや、季節に合わせて食材や調理方法などのスタイルが変わるところも自分に合っていると気づいて嬉しかったです。もちろんベテランの職人さんが握る寿司のクオリティは信じられないほど高いので、そのレベルに到達するのは無理でも、フィンランドが大好きだということが、自分の寿司職人としての個性につながればいいなと前向きに考えています。

ロールモデルを見つけて

――本作ではキャリアの築き方もテーマのひとつですが、自分の生き方に悩んでいる人に相談を受けたら、chikaさんはどんな言葉をかけますか?

 興味のあることがあれば、実際にそれを実現している人を探して話を聞いてみるのが良いと思います。私の場合、「自分に似た境遇の人が道を開いている」というストーリーを聞いて勇気をもらいました。誰でも広い世界に1人は自分のロールモデルが見つかるはず。そうやって自ら行動したことが、新たなアイデアや考えてもいなかった選択肢に繋がっていくのではないでしょうか。また、どんな経験も価値になると思うので、自分自身の歩んできた道を振り返ってみるのもキャリア形成の役に立つと考えています。

 たとえば今の仕事が「好きじゃないな、自分の夢とは違うな」と思っていても、10年後、20年後にその仕事をした経験が生きるかもしれません。私自身がそうで、経験を掛け合わせていくことで自分らしいキャリアを見つけられました。

――仕事をしながら夢を叶えるために時間を作るのは大変なことのように思えるのですが、chikaさんはどのような工夫をしているのですか?

 「フルタイムの仕事と漫画制作、北欧関係のことですごく忙しいんじゃない?」とよく聞かれるのですが、案外しっかりと休んでいます。どんなにやりたいことが多くても、できるだけ予定を埋めるのは8割までにして、2割は「事前に何をするかは決めない」余白の日を残すようにしています。

 余白の日には北欧のコーヒーをゆっくり飲んだり、思い立って小旅行に出かけたり、そのときに「やりたい」と思ったことを楽しむようにしています。2割の余白のおかげで心にも余裕を持つことができるし、未来につながる新しいアイデアとの出会いも生まれるのだと思います。

――今後のご予定は?

 次回作は、フィンランドで就職が決まるまでの詳しい流れを描いたコミックエッセイを今年中に発売する予定です。フィンランドに行った後の目標については、今はあえて決めないようにしています。きっとフィンランドで働き始めた後に、その場所からしか見えない景色があるはず。今は「次はどんな目標が見つかるんだろう?」とわくわくしています。