1. HOME
  2. コラム
  3. フルポン村上の俳句修行
  4. フルポン村上の俳句修行 響けイマジン、戦争を詠う

フルポン村上の俳句修行 響けイマジン、戦争を詠う

 北は秋田から南は愛媛まで。初心者とベテランが入り交じり、年齢も高校生から80代までが、数十人。しかも投句は有季定型、無季、自由律など、なんでもオッケー。

 そんな“異種格闘技”の様相を呈する「東京つちのこ句会」をまとめるのは、種谷良二さん。2021年1月のコロナ禍、「どうやって俳句を続けていくか」「どうやって遊んでいくか」を考えた末に、リアルとオンラインを組み合わせた句会を始めました。メンバーには高校の同級生もいれば、インターネット上で知り合い、実際には会ったことのない人も。「俳句のおもしろさはやっぱり、人のつながりですよね。句会に集まるとみんな友だち。僕も初めての句会に遊びに行ったり、違う結社の句会にゲストで出してもらったり、武者修行に出てみたり、いろいろやってきたんですけど、温かく迎えてくれる。俳句という土俵の上でコミュニケーションができるのは、非常に不思議な遊びだと思いますね」

「東京つちのこ句会」をまとめる種谷良二さん

 種谷さんが俳句に出会ったのは、2006年に仕事で愛媛に転勤したとき。「単身赴任中の私生活を充実させようと思って。松山市内だったんですけど、松山といえば俳句じゃないですか(笑)」。子規記念博物館で開かれていた俳句教室に通い、そこで講師をしていた「櫟(くぬぎ)俳句会」の江崎紀和子さんに師事して今に至ります。

 「俳句は非常に短い詩なので、日常生活の中で簡単に作れますよね。現役時代はすごく忙しかったんですけど、時間のない中でも頭の中で作れるから、続けやすい」。句作で大切にしているのは、「日常生活でみんな生業をもっていたり、子育てをしていたりとかいろんな場面があるんですけど、そういう中にちょっとした喜びを見いだして詠(うた)う」こと。「本当につまらない句ね、って女房にはよく言われますけどね」と笑います。

42人中16人でリアル句会

 参加者は3月11日正午までに、インターネット句会のシステム「夏雲システム」に5句を投句することになっていました。今回参加したのは総勢42人。投句が終わると、集まった計210句から特選1句を含む7句をそれぞれが選び、翌12日に集まれる人だけが集まって、結果を元に議論します。桜のつぼみがほころびそうなほど暖かくなった午後2時、東京・永田町にあるビルの会議室に集まったのは、村上さん、種谷さんを含めて16人でした。

 2時ちょうどに、作者を伏せた状態でどの句に何点が入ったか(特選=2点、並選=1点)の結果を公開し、それを見ながら高得点句から時間の許す限り講評していきます。今回、最高の11点を獲得したのは、しきさんの「退院の夫(つま)よく喋る桜餅」。「男の人がよくしゃべるのは機嫌がいいときで、女の人がよくしゃべるときは不満があるとき(笑)。だからこの方はすごくうれしいんだろうなと思って。たぶん普段は無口な人なのかもしれない」(琴心=ことみさん)など称賛のコメントが相次ぎました。

 続く9点句は、ばななさんの「シーソーの片方は地に春寒し」と、俳句の強豪・松山東高校文芸俳句部に所属するDさんの「つきゆびの子と永き日の保健室」でした。「つきゆび」の句を特選にした村上さんは「つきゆびって言葉が懐かしくてうれしかったのと、保健室でありながらここには平和さがあるっていうのがいいなあと思って」。一方で、選ばなかった人からは「ずっとバスケットやってたんですけど、つきゆびくらいでは保健室に行かない」というやや厳しい意見が寄せられます。

戦争とイマジンは近い?

 メンバーには種谷さんの高校の同級生が多く、気心の知れた仲間同士、歯に衣着せぬ句評がその後も飛び交います。6点句の「玉眼に映る人の世古ひひな」(海月)には「(古ひひなと言っている)作者の発想が古い」、5点句の「卒業の朝熱厚(あつあつ)の玉子焼き」(やす)には「小市民的」など手厳しく、中でも最も白熱したのは7点を獲得した琴心さんの「国境にひびくイマジン春の雪」という句でした。

手鞠:今ウクライナで戦争が起こっていますけど、どういうことで世界が動いているかはもう、本当に分からない。だから今回戦争の句は取らなかったんですけど、これは(ジョン・レノンの)イマジンっていう曲が浮かんできました。

種谷:今回特徴的だったのは、戦争を詠んだ句がたくさんあったってことですよね。時事俳句、社会性俳句をどう評価するかとかはありますけど、今一番喫緊の問題ってこれじゃないですか。それを避ける必要はないし、詠えるものであれば俳句でも詠うべきではないかなと思います。個人的には1句は時事俳句を選ぼうかなと思ったんですけど、戦争とイマジンの結びつきが安易かなと思って。

葉双(はふたつ)イマジンを使ったこういう内容の句は前にも何回かあって、イマジンが耳に残ってるし鼻にもついていた。戦争中にイマジンを、っていうのは発想がそこで止まっちゃってておもしろくないと思って、一番最初に蹴飛ばした句でもありました。

あわ:ウクライナの話ですよね、これ。あの映像見たら、イマジンなんて歌ってる場合じゃないだろ。だからこの人は何言ってるの、って思いますよね。頭で作ってる作文ですよね。

琴心:私の句なんですけど、本当にピアノを弾いてる人がいたんですね。ポーランドに渡ってきた人にピアノを弾いて慰める、みたいな感じで。それがたまたまイマジンだったんですよ。世界中がこの人が悪い、これが悪いって分かってるのに、誰も手出しできないじゃないですか。私たちがここにいても何もできないから、ピアノを弾いてあげていることがうらやましかったんです。イマジンに関して、ここまで言われる!?

一同:(爆笑)

村上:7点取ってますからね!

 「なんだかんだ言っても点を取った者が勝ち」「高点句だからこそ、たたいていい」という闊達な雰囲気の中、「灯台も春のキャベツも濡れている」という村上さんの句に5点が入りました。こちらもヒヤヒヤの展開で・・・・・・。

手鞠:遠くに見える灯台と小さい春のキャベツとの対比。そこに同じように雨が降っている、というのと、きっと私キャベツが好きなんです(笑)。

種谷:春寒をロールキヤベツに包み込む」って詠んでましたもんね(笑)。灯台とキャベツの組み合わせって何だろうって思ったときに、(神奈川の)三浦半島に行くと、三浦大根の畑が海のところまでずーっと迫ってるでしょ。そういうイメージで、三浦野菜が灯台のそばにあって、両方とも春の雨に濡れてるんだなっていう景がぱっと浮かんだのでいいなと思いました。おもしろい取り合わせをしてるんだけど、実はリアリティーのある句だなと思って。ほかの方はどうですか?

慶英:おもしろくないな〜。

葉双:(これ以上、句評を続けると)ひどい言葉しか出てこない。

村上:これ、僕です。

一同:(爆笑)

葉双:危なかった~(笑)。

村上:よかったです、(止めてもらって)助かりました。今日、得点取ってる句の方がひどいこと言われてるから。これは三浦半島ではなくて、最近仕事で行った千葉の銚子で、灯台の周りにキャベツ畑があったんです。その日ちょうど雨が降っていて、それがきれいであった、っていうその実景です。

 村上さんは「もういない蜂の軌道を追っている」にも1点が入り、計6点という結果になりました。2時間半にわたり繰り広げられた舌戦も、終わればノーサイド。最後はみんなで記念写真に笑顔で収まり、解散となりました。

句会を終えて、村上さんのコメント

 高得点の句を腐す、というのが今までの句会の中でも一番気持ちよく出てた会だと思います(笑)。自由律でもなんでもいいということだったので、いつもの自分らしくない、あまり日常とは関係ない句を出しました。世界情勢の句が多くて、僕は提出してないし取ってもいないんですけど、イマジンの句で「イマジンと戦争が近い」ということが議論になるのはおもしろかったですね。ああいう時事俳句を出すと辛口の講評が出るのが分かっててみんな出してると思うので、僕も今後避けない方がいいだろうなとは思いました。時事は距離感が取れなくて、俳句としてのクオリティーは下がってくると思うんですけど、それでもせっかくなら出していった方がいいのかなと思いました。

【村上さんの出句5句】
もういない蜂の軌道を追っている
竜天に登る模型にウェザリング
旧仮名にスペルチェックの線や春
灯台も春のキャベツも濡れている
春禽や廃墟ホテルの螺旋階

【俳句修行は来月に続きます!】