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世界として、彼女をみている 「大竹彩奈画集 いつか」

『大竹彩奈画集 いつか』から「みちくさ」(2021年)

 全てのものには輪郭がある。自分にも。肌は不思議で、自分にとってそれは全てが平面で、線ではない。私そのものとしてそこにある肌。けれど、他者から見れば、私の肌は輪郭として線を作り、その線が私という存在を浮き上がらせている。他人にしか見えない「線」、それが世界と自分を区切っている。でも、私にとって、世界は私とそんなにくっきり分かれているものだっただろうか。世界のことをたまに私そのもののように思ったり、むしろ、世界が私を支配してしまうように感じたりすることもある。他者が見る「私」の、絶対的な区切り方。そういう視線を感じると、私は私として私を外側から見てみたい、と思う。他人のことを、私が私に感じるのと同じくらい世界と区切られていないものとして見たい、とも思う。この『いつか』はそうした願いを少し叶(かな)えてくれる。人の輪郭として描かれる線が、確かにそこにあるのに、その線が世界のものなのか、その線で描かれた人のものなのか、曖昧(あいまい)に思う。

 肌が自分を形作っていると思う時、同時に、この肌は私にとっての世界の輪郭でもあるんだなと思う。私が内側から肌を撫(な)でることができるなら、それは世界を撫でることと同義だ。『いつか』の線はその両面性があって、私は世界として彼女をみているし、そして彼女も世界としての私をみている、と思えるのです。輪郭を持つこと、肌を持つことの豊かさをこの本で感じることができました。=朝日新聞2022年3月19日掲載