1. HOME
  2. イベント
  3. 村上春樹ライブラリーで公演企画始動 異文化に開かれた空間で、音楽に浸る

村上春樹ライブラリーで公演企画始動 異文化に開かれた空間で、音楽に浸る

©大窪道治/2022小澤征爾音楽塾

 早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)で22日、「キャンパス・ライブ」と称したイベントが開かれた。オペラを通じた若手育成を志す「小澤征爾音楽塾」の塾生たちによる室内楽公演で、これを第1回とし、今後も様々な公演を企画する予定という。

 4人の弦楽器奏者が村上さんの「騎士団長殺し」で重要なシーンに引用されるシューベルトの「ロザムンデ」やクライスラー、モーツァルトなど、緩急に富んだプログラムを披露した。演奏の合間にはミュージシャンの坂本美雨さんの司会で、小澤さんの長女でエッセイストの小澤征良さんらがトークに興じた。

 同ライブラリーは昨年10月、文学を礎に、異文化に胸襟を開いた感性の交歓を促す「文学の家」のイメージで創設された。壁いっぱいの本に見守られながら大階段を下りてゆくと、自由な想像の飛翔(ひしょう)を促すかのような風通しの良い空間がひらける。小澤さんが率いるオペラに長年関わる米国の演出家デイビッド・ニースさんは「トンネルを深く下り、村上さんの作品世界に足を踏み入れたかのような感覚に陥った」と語った。音楽塾で指導に携わるチェリストの原田禎夫さんは、若手演奏家たちに「瞬時に人と人の心をつなぐという音楽の本質を、コロナや戦争が人と人を離してゆく今という困難な時代にこそ思い出して」と訴え、単なる技術ではなく、自身の全存在を一音一音に懸ける小澤さんの音楽の熱量をこそ受け継いでほしいと語りかけた。(編集委員・吉田純子)=朝日新聞2022年3月30日掲載