生家から現在の住まいにいたるまで、どのような空間で過ごしてきたか。どの部屋にいるときにどんな作品を描き、なにを思っていたか。どんな家を買い、なににこだわって設計したか。そんなことを、12人の少女漫画家にインタビューしたもの。「少女漫画家」たちの「家」に限定した切り口が新鮮。しかも、黄金期とされる1970年代までに少女漫画の世界に飛びこんだレジェンド12人だ。水野英子、青池保子、一条ゆかり、美内すずえ、庄司陽子、山岸凉子、木原敏江、有吉京子、くらもちふさこ、魔夜峰央(まやみねお)、池野恋、いくえみ綾(りょう)。思い出の家の間取りもイラスト入りで紹介されているので、間取りファンにもたまらないだろう。
タイトルを聞けばだれもが知っている名作を手掛けた彼らの語りを集めたインタビューだけでも価値のある証言だが、この本が単なるインタビュー集で終わっていないのは、同時代を生き、新たな文化を形成していく過程で社会との接点に悩み、もがき、苦しみ、そして楽しんで謳歌(おうか)した人間の姿が浮き上がってくるからだ。
職業として世間や家族の理解を得られなかった時代に、10代でデビューする人も多い少女漫画家。個別具体的には、シングルマザーとして子育てしながら作品を描いていた水野先生、原稿料や専属料を上げた庄司先生、六本木や麻布十番での遊びもした一条先生など、少し読むだけでも、この時代の女性の「生き方」としても最先端をいっていたことがわかる。当時の少女漫画は作家と読者の年齢が非常に近かった。少女漫画家は、読者が憧れる西洋文化や、物語や、カウンターカルチャーの紹介者でもあり、当時の男性編集者にはなかなか理解できなかった「少年愛」や「同性愛」など流行(はや)り廃りをリードした存在でもあった。少女漫画は可能性にあふれ、懐が深く、まだマーケティングなどが通用しないジャンルだったことが、本人から語られた言葉だからこそ肌感覚として伝わってくる。
読後感として爽快なのは、硬い作品論や作家論に振り切るのではなく、あくまで住居を軸として語られたものだからだろう。あの作品はこの家で描いた、次に手狭になってマンションを買った、大勢のアシスタントさんも寝泊まりできる家を20代で建てた、など(『ガラスの仮面』の美内すずえ先生は家もあるのに神保町のカンヅメ旅館の12畳ぐらいの部屋にずっと寝泊まりしていたり!)。
そして、そんな彼らがキャリアの終盤にどう仕事と向き合っているか、どういう問題意識を抱えているかまで聞き取れているのがうれしい。気づけば自分の人生の来し方行く末について考える、人生論の書であった。=朝日新聞2022年4月16日掲載
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文春新書・902円。2004~21年に掲載された「週刊文春」の「新・家の履歴書」より編んだ。少女漫画全盛期の傑作を「舞台裏から描いたガイド」でもあるという。