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平田昌広さん・景さんの絵本「ぱんつくったよ。」 ことばの区切りを変えて、予想外の展開に

文:澤田聡子

個性がぶつかる夫婦共作絵本

――子どものころ、「パン、作ったことある?」「うん」「え〜、パンツ食ったんだ〜!」と笑い合った記憶はないだろうか。区切りを変えることで、文章や語句が全く違う意味になる「ぎなた読み」。『ぱんつくったよ。』(国土社)は、昔からあるこのことば遊びをテーマにした人気絵本だ。作者は多くの絵本作品を夫婦で手がける平田昌広さんと景さん。2002年から昌広さんが文、景さんが絵を担当する“メオト絵本作家”として活動している。

平田昌広(以下、昌広):もともと文章を書くことが好きだったんです。特に絵本好きというわけではなかったのに、中学2年のときに初めて人に読んでもらうために書いたのは童話。「日産 童話と絵本のグランプリ」の第1回に応募したんですけど、今振り返るとあれが原点かもしれない。魚もすごく好きだったから大学は水産学科だったんだけど、やっぱりモノを書くことをあきらめきれなくて、大学卒業後は演劇をやって戯曲を書いたり、編集プロダクションで働いたりしていました。

平田景(以下、景):私は小学校のころから絵を描くことが、とにかく好きだったんです。大人になって旅行会社や旅行雑誌の編集部で働きつつも、ずっと「絵本作家になりたい」という気持ちが根底にありましたね。

:それぞれ、紆余曲折を経て二人が出会ったのが、某月刊保育絵本の編集部。中途採用で社交性のないもの同士、なんだか気が合ったんですよね。そんなこんなで結婚することになって、編集部で毎月いろんな絵本と接しているうちに、「俺だったら、もっと面白い絵本をつくれるな」という思いがムクムクと……。

:失礼だよ!(笑)

『ぱんつくったよ。』(国土社)より

:出版社を退職して、二人とも絵本作家として活動するために「オフィスまけ」を立ち上げたわけです。デビュー作はそれぞれ単独で、2002年に景ちゃんが絵、志茂田景樹さんが文章を手がけた『みどりがめゆうゆうのびっくりおさんぽ』(KIBA BOOK)、その翌年に俺が出した『かあちゃんのせんたくキック』(絵・井上洋介/文化出版局)。夫婦でつくった最初の絵本は、2004年の『ひものでございっ!』(文化出版局)ですね。

:『ひものでございっ!』は、今読んでみると欲張って要素を入れすぎたね。文章も絵もモリモリで、余白が全然ない(笑)。

:初期の勢いが好きだと評価してくれる読者もいるけど、最初のころはお互いの個性がぶつかり合ってたね(笑)。でも、夫婦でやっている本当のところは表現者の相乗効果というよりも、力の足りないもの同士が一緒にやっているという感じ。「二人でしかできない」というのが本当かもしれない。

:足りないところを補い合うというか。そういう意味で『ぱんつくったよ。』 は「二人でしかできなかった」作品だと私は思っていますね。

:へえ〜、そう思ってたんだ〜(笑)。

「ぎなた読み」に試行錯誤重ねる

――2013年に出版された『ぱんつくったよ。』(国土社)は、「ことばあそび絵本シリーズ」の最初の作品。着目したのは「ぎなた読み」だ。

:絵本作家としてずっと意識しているのは、どうしたら読み聞かせをもっと面白く、楽しくできるんだろう、ということ。読みやすいよう、会話文を主体にした絵本づくりや、二人の掛け合いで絵本を読み聞かせる「メオト読みライブ」もそうした思いから始まったんです。日本全国でライブをするようになって、大きなイベントにも夫婦で参加するようになりました。「親と子の絵本ワールド イン・いしかわ2012」が、『ぱんつくったよ。』が誕生するきっかけとなったイベントですね。

『ぱんつくったよ。』(国土社)より

:ちょうど10年前のあつ〜い夏だったね。

:イベントでは、『だんごうおです。』(徳間書店)っていうユニークな魚の名前をテーマにした絵本の読み聞かせライブをしたんです。「だんごうおです。/だんご うまいです。」とか「ふくろうなぎ と ぶたはだか です。/ふくを ぬぎ ぶた はだか です。」みたいなだじゃれの絵本。ホラ、水産学科だったから珍しい魚に詳しいんですよ(笑)。

:私は全然、魚の名前知らない(笑)。

:ネタ集みたいな絵本なんだけど、これがライブで大ウケ。イベントが終わって、会場の外でかき氷を食べていたら、「面白いこと、やってるね!」といきなり声をかけられたんです。「うちも絵本つくっているんだよ」って渡された名刺を見たら……。

:国土社の社長さんだったんです(笑)。まさか社長に声をかけられると思っていなかったから、びっくりした。

:イベント後もわざわざ神奈川の三浦海岸にある我が家まで、遠路はるばる足を運んでくださって。『だんごうおです。』のようなことば遊びの絵本をぜひつくろうという話になりました。いろんなことば遊びを試してみたくて、まずやってみようと思ったのが「ことばの句切り」だったんですね。最初は「ぎなた読み」だけではなくて「形容詞がどこにかかるか」で意味が変わる、というネタも出していたんですよ。

:たとえば「とても大きなおばあちゃんの家です」っていう文だと、「大きい」という形容詞がどこにかかるかによって、「とても大きいおばあちゃん」と「とても大きな家」の両方の意味にとれますよね。

:でもそれではつまらないなと思って、「ぎなた読み」に絞りました。結果的にこれが正解だったかな。

「発想の飛躍」が爆笑を生む

――「10かいまで しゃちょうの びるです」が「10かいまで しゃちょう のびるです」になるなど、「ぎなた読み」にしたからこそ「こう来たか!」という思いもかけない面白さにつながる。

:普通の生活をしていて、社長の体がびよーんと伸びるなんて、なかなかイメージしないですもんね(笑)。

『ぱんつくったよ。』(国土社)より

:ページをめくったときに、予想もしなかったことが起きていないと面白くない。ちなみに、右ページに「ネタ振り」があって、次のページに「回答」がある、というクイズ形式の構成は国土社の社長からのアドバイスです。

:見開きでセットだと、ネタばれしてしまうからね。ページをめくって、絵を見た瞬間に「秒」で笑わせなきゃいけないのが難しい。

:ネタをつくるときは、同時にビジュアルイメージも考えているんですよ。景ちゃんに渡すテキストには必ず、「ト書き」を添えます。「伝わりづらいかな〜」と思うときは、コンテまでつくることもある。

:まっさんのビジュアルイメージがはっきりしているから、その意図を忠実に汲んで、絵に変換するのが私の役割。ネタ出し担当はほぼ100パーセント、まっさんですね。私や娘にネタ募集することもあるんだけど、採用されたことはあまりないね(笑)。ジャッジが厳しいです。

:「ことばあそび絵本シリーズ」では毎回、最終的に掲載するものの倍以上のネタを考えていますね。

:ネタの善し悪しは、国土社の社員さんたちが意見をくれたりもするんですよ。ネタを書き込んだ一覧表に、「面白い」とか「ややウケ」とか編集さんだけでなく、営業さんも感想をくれるんです。続編の『ぱんつくったよ。2』のときは、「営業の○○ですが、こんなのどうでしょう」って新ネタが付いて戻ってきたこともあります。

:残念ながら、ボツでしたが(笑)。

――昌広さんの文の面白さをさらに引き立たせるのが、景さんの「絵の力」だ。

:たとえば、「うんてんしさんと ばすていりゅうじょです。」が「うんてんしさん とばす ていりゅうじょです。」と変化したとき、“何”を飛ばしているのか。「一つ停留所を飛ばしてしまった、行き過ぎちゃったよ〜」というパターンもあると思うんです。でも、バス停の標識を砲丸投げみたいに投げ飛ばしちゃったほうが断然面白い。「ここはこういう場面」っていうのをまっさんが明確に書いてくれるので、私はそれを元に読者を一瞬で笑わせられるよう、努力する。どうしたら、より面白くインパクトのある絵柄にできるのか、と考えています。

『ぱんつくったよ。』(国土社)より

:キャラクターの造形も景ちゃんの担当だよね。表紙を飾るパン好きなお相撲さんの「こむぎ山」や、読者に人気の「10階まで伸びる社長」は、ほかのページにもたくさん登場します。

:おけで踊るおばちゃんを鑑賞していたり、行列に並んでいたり、社長はいろんなシーンで大活躍ですね。

:こういう「遊び」の部分は景ちゃんにお任せしています。

奥深い「ことば遊び」の世界

――2作目の『てんぐ、はなをかむ。』は同音異義語、3作目の『しろがくろのパンダです。』は助詞を一字変えた文……など、毎回異なることば遊びをテーマにしたシリーズ。昨年の『ぱんつくったよ。2』で、ついに6作目となった。

:4作目『いすにすわってたべなさい。』は、一字足すと意味が変わる「ことばの足し算」、5作目『すごいたいじゅうでうごきません。』はアナグラム、『ぱんつくったよ。2』で、もう一度「ぎなた読み」に挑戦しました。「アイデアが枯渇しないんですか?」と聞かれるけど、ことば遊びの世界にハマっていくにつれ、どんどん面白くなってきたんだよね。ここまで来たら、もう何でもできそうな気がしてきた(笑)。

:こむぎ山や社長さんなどのレギュラーキャラは、シリーズが回を重ねるごとに勝手に動いてくれるようになって、絵を描くほうとしても楽になりました(笑)。

:今はまた新しいことば遊びをテーマに、7作目の構想中です。

――『ぱんつくったよ。』などの「ことばあそび絵本シリーズ」を親子で読むとき、より楽しむためのコツは。

:大人だと、一度読んだときの衝撃的な笑いは続かないじゃないですか。でも子どもって内容を知っていても、何度も同じように面白いと思えるんですよね。「男はつらいよ」の寅さんみたいな感じで(笑)。

:「やってること、毎回同じじゃん!」って思っても笑えるんですよね。

:だから、読み聞かせのコツは特にいらないの。一度ツボにハマったら、どんなふうに読んでも面白い。なんなら、意味がよく分かってなくても面白い。

:『ぱんつくったよ。』の読み聞かせライブで、最前列にいる3歳くらいの男の子がずっと爆笑していたことがあったね。

:たとえば、「ぽけっとから とり だします。」だったら、ポケットから鳥がぴょんぴょん飛び出していることにウケちゃう。面白さって意味が分かるかどうかは関係なく、「伝わる」ものなんだと思いましたね。

:「ぎなた読み」が本来の意味で面白く感じられるのは、小学校に入ってからぐらいなんです。

:作家としてうれしいのは、その子が成長して何年後かに本当の意味が分かったとき……。

:「こういうことだったんだ!」と、ついに分かったときだね。腑に落ちた瞬間のピカーン!という顔が見てみたいね。

:その子にとっては大発見だよね。面白いと思う部分も年齢によって変わってくるし、長く読んでもらえたら作者冥利に尽きますね。読み聞かせのときはぜひ、親子で自由に楽しんでもらえればと思っています。