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「戦後日本社会保障の形成」書評 「政策の哲学」提示 針路決める

評者: 神林龍 / 朝⽇新聞掲載:2022年06月11日
戦後日本社会保障の形成 社会保障制度審議会と有識者委員の群像 著者:小野 太一 出版社:東京大学出版会 ジャンル:社会保障

ISBN: 9784130564021
発売⽇: 2022/03/31
サイズ: 22cm/317p

戦後日本の社会保障制度審議会が日本の社会保障の生成、発展にいかに貢献したかを解説。制度審という組織体に着目して通史的な分析を行い、歴代の主要有識者委員らの理論や思想が社会…

「戦後日本社会保障の形成」 [著]小野太一

 「政策は誰がつくるのか?」と問えば、やれ政治家だ、役人だ、専門家だといろいろ思い浮かぶが、様々なやり方があるのが実情だ。本書は、そのうち審議会方式と呼ばれる方法の本家ともいうべき社会保障制度審議会(制度審)の歴史を、主要な関係者の考え方を軸にまとめている。
 制度審は、戦後首相直轄の諮問機関として設置され、現在の社会保障制度の根幹を形成したとして名高いが、今世紀の中央省庁再編によって廃止された。比較的独立した組織として、首相や各種大臣の行う社会保障関連の立法にあらかじめ意見する役割が与えられ、専門家、国会議員や労使などの関連団体代表を包括して構成された。本書は、成立過程をつぶさに追うことで制度審設置の真の目的を明らかにし、その勧告は、本書でいう「政策の哲学」を提示するためだったと解釈している。
 本書のもうひとつの特徴は、初代会長の大内兵衛だけではなく、学者出身の近藤文二や官僚出身の今井一男といった主要なアクターの考え方を著作や対談資料などによって復元し、それが制度審に乗り移ったと考える点だろう。大河内一男や隅谷三喜男と続く次世代の会長達(たち)についてもこの手法を適用し、彼らの思想ゆえの政策転換と説明する。
 自己責任論や雇用政策との関係など、各論でも興味深い議論が重ねられているが、評者のみた本書の裏のテーマは、現在の政策決定のあり方に対する問いかけ、つまり独立した勧告機関の是非と、識者による政策哲学の復活の是非だ。とくに哲学的討議を欠いた政策決定過程は、特定思想の政策への反映を防ぐという意味で進歩なのか、科学的知識や民主的手続きに対する批判なき委任という意味で退歩なのか、議論が分かれるところだ。その土台となる制度論を本書のように整理してもらって、我々はそれにのっかって大きな議論ができるとすれば、それは読者冥利(みょうり)に尽きる。
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おの・たいち 政策研究大学院大教授。厚生労働省家庭福祉課長、東京大教授などを経て現職。