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小佐野重利さん「絵画は眼でなく脳で見る」インタビュー 鑑賞の謎、根源から探る

小佐野重利さん

 イタリア美術史の大家がこんな関心を持って研究をしていたことに、驚く人もいるだろう。神経科学との協働で、脳が作品をどう捉えるのかを探ろうという刺激的な試みだ。

 「この本への反響は美術史側からはほとんどありません」。本書での「美術史研究にやや閉塞(へいそく)感を覚える」とした指摘が半ば証明された。

 「図像学的、作品鑑定学的な、言語を中心にした分野に傾いた」美術史研究は、鑑賞者の視点をなおざりにしているのでは、と感じてきた。オーソドックスな研究が40年になったことを機に、一歩踏み出した。

 高校時代は医学部進学を考えたことも。「人間の生理的なしくみに興味があり、美術も人間的な感情を扱える分野かなと思っていました」

 美術史と科学の関係を説き起こすなかでは、メディアをにぎわせた、尾形光琳の国宝「紅白梅図屛風(びょうぶ)」を巡る騒動も紹介している。科学調査の結果を巡って、金箔(きんぱく)を使っているのか否かが議論され、美術史家たちは調査結果に振り回された。「科学は常に真実を導くわけではなく、応急の解決を示すもの。そうしたリテラシーが美術の側に足りなかった」

 社会心理学者と認知神経科学者との共同研究で、絵画のどこを見ているのかという視線活動を計測した実験結果も盛り込んだ。喜怒哀楽などの感情も含め、脳の活動部位を細かく調べたいが、機材やソフトにかかる予算の確保や、後継者の育成といった壁が立ちはだかっている。

 提唱する「実験美術史」は、多様な文化を超えた普遍性を獲得しうると考えている。「美術は個人の見方で異なり、研究者の議論も平行線になることがある。視覚の生理学的な仕組みが理解できれば、違いがどう生じるのかという理解につながる」

 根源的な問いをはらんだ美術史研究像が、その脳の中で描かれ始めている。(文・大西若人 写真・小山幸佑)=朝日新聞2022年6月25日掲載