海外で絵本作家デビュー
――「つみきで のりもの なに つくる?」。カラフルな積み木が描かれたページをめくると、穴あきのしかけがピタッとはまって、車やバス、機関車などの乗り物が現れる。2011年初版のボードブック『のりものつみき』(講談社)は、よねづゆうすけさんにとって初の日本語版の絵本だ。絵本作家としては遡ること4年、07年に海外でデビューしている。
2005年にボローニャ国際絵本原画展に入選したのをきっかけに、イタリア・ボローニャの絵本見本市に売り込みに行きました。僕は英語がほとんど話せないのですが、「作品を見てください」と「出版したいです」という英語だけ覚えて、作品を見てもらったんです。その中で出会ったのが、今もお付き合いしているminedition社のマイケル・ノイゲバウアーさんです。
minedition社は、世界中で本を刊行しているスイスの出版社です。マイケルさんは当時香港に住んでいて、日本にも年に3、4回は来ていたので、イタリアで会った数カ月後に日本で再会しました。デビュー作は、絵を担当した『Bye-Bye Binky』という猫の絵本。2007年に英語、ドイツ語、フランス語で出版されました。
――その後、同じ猫が登場するボードタイプのしかけ絵本を考えてほしいとminedition社から依頼を受け、初めてしかけ絵本に取り組むことに。
初めてのしかけ絵本で僕自身、手探りだったんですが、考え始めたら思いのほかいろいろとアイデアが出てきたんですね。小さい頃から工作が好きだったこともあって、僕には向いていたんだと思います。
頼まれていた猫のしかけ絵本以外にも、いくつかのアイデアを提案したら採用されるようになって。それからいくつもしかけ絵本を手がけました。『のりものつみき』も、そのうちのひとつです。
逆輸入で日本語版を刊行
――『のりものつみき』は『Moving Blocks』というタイトルで、海外で先に出版され、逆輸入という形で日本でも翻訳版が出版された。
赤ちゃんにもわかりやすい、丸・三角・四角といったシンプルな形で何かできないかなと思ったのが、アイデアの原点です。丸・三角・四角といえば積み木かなと。それ以前は、めくるタイプのしかけ絵本しか手がけたことがなかったんですが、『のりものつみき』で初めて穴あきのしかけ絵本に挑戦しました。
モチーフは最初から乗り物に限定していたわけではなく、動物とか他のものでもできないかと考えていたんです。マス目を使って、その中に丸・三角・四角を描き込んでアイデアを出していったんですが、乗り物が一番多く思いついたので、乗り物に絞ることにしました。
海外で出版する場合、日本にしかないものは描かないように気をつけなければいけないのですが、乗り物はどの国でも共通するものなので、企画もスムーズに通りました。穴あきのしかけの都合上、対称的なデザインの乗り物でないといけません。その点では制限がありましたが、最終的には小さい乗り物から徐々に大きい乗り物になって、ラストはロケットで宇宙に行く、という流れでうまくまとまったと思います。
――赤ちゃんから楽しめる絵本だが、穴あきのしかけがきれいにはまって乗り物が出てくる様子は、大人が見ても気持ちいい。初めて見ると、大人でも次にどんな乗り物が出てくるかわからないこともあるようだ。
僕は絵本の内容やしかけによって、絵のタッチをかなり変えるのですが、『のりものつみき』については穴にはまるときのピタッと感が大事なので、ずれが生じないようにパソコンで描きました。積み木の風合いが出るように、木目をスキャニングして使っています。
赤ちゃんの目にもパッと入ってくるように、黒くて太い輪郭線とはっきりした色合いを意識して作りました。海外では、この絵本を積み木とセットで売っている国もあるらしくて。プレゼントでもよく利用されているようでうれしいです。
海外で受け入れられることも
――海外の出版社と長く仕事をしているが、いまだに英語はあまり話せないと笑う。
シンプルなしかけ絵本が多いので、文章なしで提案することも多いですね。絵だけで伝わるので、英語が苦手でもどうにかなっています。国によっては、文章を何も入れないまま出版される場合もあるんですが、文化の違いもあるので、文章についてはそれぞれの国の方にお任せしています。
絵本作家を目指す人は、日本だけにこだわらず、世界に向けて発信していくといいと思います。絵のテイストによっては、日本よりも海外での方が受け入れられるということもありますから。SNSなどを活用して発信していけば、その中でチャンスが転がってくることもあるんじゃないかなと。
――近刊は『おんなじかたち!ABC』。Aの形はアリ、Bはバナナ、Cはワニ……文字と絵が一体化した、楽しく英語に親しめるアルファベットブックだ。
アイデアは2~3年前、木琴の絵を描いたときに思いつきました。ばってんの形で置いたばちが、ふとアルファベットの「X」に見えたんですね。木琴は英語で「XYLOPHONE」なので、この感じで他のアルファベットも描けたら、ABCの絵本が作れるなと思って。
子どもにもわかる単語にしないといけないので、すべてのアルファベットをそのアルファベットで始まるものの絵にしていくのは、かなり苦労しました。しかけ絵本ではありませんが、絵そのものがしかけのようになったと思います。
――絵本作家としての仕事のほかに、イラストレーターとしてカレンダーや手帳といったステーショナリーやテキスタイルなども手がける。
絵本作家とイラストレーター、同じぐらいの比重で仕事をしていますが、最近どちらも忙しくなってきました。絵本の方は、頭の中にはまだしかけのアイデアがいろいろとあるので、これからも出していくつもりです。