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「日米地位協定の現場を行く」書評 変わらぬ特権と被害を直視する

評者: 藤原辰史 / 朝⽇新聞掲載:2022年07月16日
日米地位協定の現場を行く 「基地のある街」の現実 (岩波新書 新赤版) 著者:山本 章子 出版社:岩波書店 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784004319283
発売⽇: 2022/05/23
サイズ: 18cm/244,6p

「日米地位協定の現場を行く」 [著]山本章子、宮城裕也

 独立国家の日本で、他国の軍隊がこれほどまで国民に対する侮辱を平然とやってのけるのはなぜか。
 テレビの音がかき消されるほどの軍用機の騒音、住民の飲み水の汚染、国民の税金による豪華な米軍関係者専用ホテルの運営が、どうしてあたりまえのようになされて、なぜ人びとの抗議に対して日本政府までもが聞く耳を持たないのか。国防のために国民の暮らしが危険に陥るのはなぜか。
 いったいなぜ、二〇〇四年八月一三日に米軍の輸送ヘリが沖縄国際大学に墜落して炎上し、飛び散った機体が民家などに突き刺さったのに、加害者である米軍は被害者を現場から締め出し、そこに日本の捜査機関は踏み込めないのか。
 なぜ、青森県の三沢基地所属の米軍機の墜落事故が一九八五年から二〇一九年まで一一件、訓練中の模擬弾や燃料タンクの投棄が三一件あり、三沢市はその都度米軍に原因究明まで飛行せぬよう要請するのに、いつも無視されるのか。
 なぜ、二〇一八年二月、青森県の小川原湖に米軍の燃料タンクが落ちて、一カ月禁漁に追い込まれた漁師に対する弁済を米軍は七八三万円も値切るのか。
 なぜ、山口県岩国市の米軍基地の関係者は、日本で免許を取らなくても軍が許可した免許があれば運転できて、交通事故が一年で百件を超えるのに、警察は減点や免許取り消しの行政処分ができないのか。
 これらの問いに対する答えは明らかだ。六〇年以上変わらない日米地位協定である。米軍の特権が日本国を守るどころか日本国民の生活を危険に陥れている矛盾を、本書は嘉手納、三沢、岩国、福岡の築城、宮崎の新田原(にゅうたばる)、赤坂や厚木、鹿児島の馬毛(まげ)島などの現場取材から明らかにする。
 本書を読んで、日米地位協定が変わらない根源的理由を理解した。過疎地へと基地とその被害を追いやり、自分の視界から遠ざける、大多数の日本人の、見るに堪えない薄情さである。
    ◇
やまもと・あきこ 1979年生まれ。琉球大准教授▽みやぎ・ひろや 1987年生まれ。毎日新聞記者。