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ゾンビ映画の極限シチュで英語を勉強!? 「ゾンビ英単語」監修者・岡本健さんインタビュー

短い言葉で、さっと

――本書は、岡本さんが准教授を務める近畿大学のプロジェクト「近畿大学ゾンビ研究所」と出版社による産学連携で生まれた英単語帳です。ゾンビ映画風のオリジナルストーリーに沿って例文や単語を学習する仕組みです。パンデミックの発生に始まり工場やショッピングセンターでの籠城、学校の惨劇、仲間割れにラブストーリー……。ゾンビ物のシチュエーションがてんこ盛りですね。

 登場人物もゾンビ映画のオマージュにこだわりました。ゾンビとよく戦うことになる警察のSWAT隊員に、ゾンビを兵士として利用しようとするナチスみたいな組織「ゾンビ軍団」などなど。ストーリー本編に加え、実際のゾンビ映画から英語のセリフを引用して紹介するコーナーも設けました。

――ただ、なぜ舞台をあまりに日常とかけ離れたゾンビ作品にしたのですか? 「All of them have turned into zombies(みんなゾンビになってしまったの)」 とか、流石に現実で話す機会はないような……。

 実は、ゾンビ映画に出てくる英単語は短くて分かりやすい物が多いのです。危機的状況を描くジャンルだから、飛び出すセリフも緊急性が高い。例えば映画「WORLD WAR Z」(2013年、米国)から引用した「Come here.Stay close」(こっちに来て、離れないでね)など。サバイバルに使える英単語という訳です。

 NHKでは以前「ミニ英会話・とっさのひとこと」という番組がありました。ゾンビ映画の世界でも、短い言葉がさっと出てこないとゾンビに食われてしまう。日本語だって普段の生活で使う言葉の多くはたいてい短いですよね。基本的な内容を短い表現で言えることが、英会話習得の足がかりだと考えました。

 あと、ゾンビ系作品に出てくる台詞はとにかく印象に残りやすいものです。例えばアーケードのシューティングゲームの名作「ザ・ハウス・オブ・ザ・デッド」。本書では紹介していませんが、序盤に目の前でゾンビに殺される人の「アイドンワナダイ!(死にたくない!)」というフレーズは私、いまだに耳に残っていますよ。

――私も子どもの頃にプレイして以来、あの断末魔が耳にこびりついて離れません……。

 そしてもちろん、本書で学ぶことでゾンビ映画を英語の音声で楽しめるようになるというメリットもあります。例えば「disgusting」は気持ち悪い、オエエッという意味ですが、私はこの単語を中学などでちゃんと習った覚えがあまりない。でもゾンビ映画ではよく飛び出します。現実の日常会話でもよく使われる単語のようですね。このように、ゾンビ作品には意外と真似しやすい英文や単語が多いのです。

ゾンビ文化に敬意を払って

――一方、岡本さんが担当した「ゾンビ講座」というコーナーはもはや英語と関係がありません。「あなたはゾンビを愛せますか?」「ゾンビのいる日常をどう生きるか」などと、ゾンビ映画に頻出するテーマをひたすら熱く語っているのが印象的です。

 実は、私が執筆したのはこのコーナーだけ。本書の例文を担当したのは、ゾンビ研究所の「研究員」に自ら志願した私のゼミの学生たちです。もとからゾンビ映画ファンの子はいなかったので、あらかじめ有名作品を10本ほど見て勉強してもらいました。怖い映画が苦手な学生にはグロくない作品を渡したりして。「ゾンビ作品について最初から詳しくなくてもいい。でもゾンビ映画ファンから『偽物』だと思われないよう、ちゃんと作ろう」と指導しました。

 シリアスなストーリーもあれば、冗談のような作品も飛び出すのがゾンビ映画というジャンルの魅力です。本書の制作に当たっては、そうしたゾンビ文化に敬意を払いたいという思いも非常にありました。当初はゾンビ映画に詳しくなかった研究員たちも、全員が巻末に「自分の好きなゾンビ映画紹介」をしっかり書けるほどになりました。彼らの頑張りのおかげで、ゾンビをネタとして使っただけの企画でなくゾンビ映画の面白さが伝わる本になったと思います。

ユーチューブでVチューバーの「ゾンビ先生」としても活動している岡本さん

言葉を学んで「他者」を減らす

――そもそもゾンビ映画は日本を含め世界中で愛されているジャンルです。本書で親しんだゾンビ作品ネタが、海外のファンと英語で話すきっかけにもなりそうですね。

 はい、好きな物を通じてであれば外国人との言語の壁はけっこう乗り越えられるものです。日本語を学んでいる外国人のかなりの割合が、アニメなど日本のサブカルチャーに関心のある人だとされています。「NARUTO」の話題を出せば、日本と海外のアニメファン同士はすぐに結びつけるでしょう。「アイラブゾンビムービー」と言えば、私たちも海外のゾンビ映画ファンと仲良くなれるかもしれない。本書で英語を学んだ人がゾンビ映画をとっかかりにして言葉の壁を越えてくれればうれしいです。ちなみに私は、ゾンビの次に英単語学習に向いているジャンルは「サメ映画」だと思ってます(笑)。

――たいていは意思疎通ができない設定であるゾンビを通じて英語という会話のツールを学ぶという本書の構図も、そう考えると少し意味深に思えますね。

 そもそも、フィクションの中のゾンビとは何を意味する存在なのでしょうか。

 私たちは、言葉の通じない相手を(自分と全く別存在である)他者だと見なす傾向にあります。ゾンビ映画とはまさに言葉の通じないゾンビ、つまり「他者」が多くて困っている状況だと言えるでしょう。でも、果たしてゾンビ=対話できない他者だからといってやっつけていいのか? という問題が出てくる。

 ゾンビ映画の登場人物の多くは、ストーリーが進むにつれて乱暴な言葉を多く発するようになりますよね。「奴らをやっつけろ」みたいな。しかし本来、言葉とは「暴力を用いずに交渉するツール」だったはずです。逆に「奴ら」と言葉が通じるようになれば、(自分にとっての)「他者」を減らすことができるのではないでしょうか。

 現実の私たちは、英語を学ぶことで自分とコミュニケーション可能な人を世界中に増やすことができます。外国語ができるようになることは、まさに「他者を減らす行為」にほかなりません。本書を通じて英語を身に付ける人が増えることで、ゾンビ映画が比喩として描いてきた問題への対処になればいい、と願っています。

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