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深緑野分さん「スタッフロール」インタビュー より良い芸術へ、傷ついても 

深緑野分さん(文芸春秋撮影)

 映画で流れるスタッフロールには、制作者たちの名が記される。深緑野分(ふかみどりのわき)さんの『スタッフロール』(文芸春秋)は、銀幕に名を残そうと奮闘した2人の女性の物語だ。戦後ハリウッドで働く特殊造形師マチルダと、現代のロンドンで活躍するCGアーティスト、ヴィヴィアン。裏方であること、女性であること、CGの台頭と最新技術への批判……。映画に情熱を燃やす2人の葛藤が描かれる。

 深緑さんは映画好きの両親から、「スタッフロールを必ず最後まで見るように」と言われてきた。「この人たちのおかげで、あなたは映画を見ることができたのだから」と。

 物語の前半、マチルダはCGの隆盛に苦しむ。一方、後半ではヴィヴィアンが「CGには偽物を見せられている」と揶揄(やゆ)される。迷いながらもヴィヴィアンは、仕事への誇りを捨てない。〈映画は科学だ。そして科学は進歩する。科学が進歩すると人間の想像力は更にその上を行こうとする。非現実的な夢を見る。それを再現することができるのはコンピュータ・グラフィックスだ〉

 深緑さんは、特殊造形を「芸術」、CGを「技術」と言い換える。「両者が生むのは分断ではない。どちらも芸術をより良いものにするための存在だと描きたかった。技術は芸術のおかげで引っ張られてきたんです」

 作中でヴィヴィアンは、賞レースに翻弄(ほんろう)される。アニメーターの才能がなければよかったとさえ思う。「彼女は、ほぼ私です」。作家デビューをしてからの9年間で、今作も含めて3回、直木賞候補になった。過去には、重圧や受賞を逃した申し訳なさから自信を失ったこともあった。執筆が進まないとき、厳しい評を見たとき、売れないとき。そのたびに傷つき、苦しくなる。でも何度背を向けようとしても、「物語のキャラクターがドアを蹴破って入ってくる。だから書かざるを得なくなってしまうんです」。(田中瞳子)=朝日新聞2022年7月30日掲載