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経済のなかで生まれる新たな倫理や道徳とは 「応援消費 社会を動かす力」など杉田俊介が選ぶ新書2点

『応援消費 社会を動かす力』

 市場原理であらゆる価値が計算される。それが社会の唯一の道徳であるかのように。医療や福祉、教育さえ。だが「経済に侵食されながら、その中で新たな倫理や道徳が生まれ」る。水越康介『応援消費 社会を動かす力』(岩波新書・968円)は、ふるさと納税などを例に、無償の贈与が見返りを期待する交換に転じる、という「贈与のパラドックス」を冷静に見つめる。または市民の奉仕に国家や企業がつけこむ、という現実を。新自由主義の中では、我々は(清く正しく、ではなく)賢く正しくならねばならない。消費者の欲望はその先で、政治的にも倫理的にもこの世界を「より良く」していくだろう。
★水越康介著 岩波新書・968円

『ウンコの教室 環境と社会の未来を考える』

 湯澤規子『ウンコの教室 環境と社会の未来を考える』(ちくまプリマー新書・924円)は「衣食住」という時に見落とされる「便」=排泄(はいせつ)の側から社会を見つめ直す。ウンコは価値のない見たくないものにされがちだ。しかし江戸時代の農書を読み解くと、人糞尿(じんぷんにょう)を用いた肥料技術の豊穣(ほうじょう)な伝統があったという。生産と消費だけではなく、排泄と分解がなければこの世界は回らない。人間と動植物と排泄物が土を介して命を譲り与えあうような、清濁入り乱れる「環(わ)」としての交換が潜在しているのだ。たとえそれも市場原理の汚染から無垢(むく)ではありえないとしても。
★湯澤規子著 ちくまプリマー新書・924円=朝日新聞2022年8月20日掲載